ホロライブプロダクションのタレントたちが届ける3D配信。生誕記念ライブや大型イベントで披露される、高クオリティの3D表現はファンの間でも人気のコンテンツのひとつです。一方で、準備や配信に多くの時間とスタッフを要する従来の3D配信は、どうしても実施できる機会が限られていました。
そこで開発されたのが「セルフブース3D※」です。身体にマーカーや専用スーツを装着することなく、カメラ映像のみで骨格をリアルタイムにデジタル化する「Captury(キャプチュリー)※」を活用したこの配信システムは、タレント自身が操作できる直感的な設計により、普段着のままブースに入れば即座に3D配信を開始できます。2025年5月の本格始動以来、カラオケ配信やダンスレッスン企画、屋外でのロケ配信など、これまで実現が難しかった3D配信での多彩な企画を次々と可能にしています。
このシステムを支えるのは、ソフトウェア開発を担う技術開発部と、現場での運用を担う配信技術部という、異なる役割を持つ2つのチームです。このシステムはどのように生まれ、両チームの連携のもとで現場に根付いていったのでしょうか。クリエイティブ制作本部・配信技術部および技術開発部のメンバー6名に、開発の経緯と今後の展望を聞きました。
(取材日:2026年6月)
※プレスリリース:2026/02/20 カバー株式会社、マーカーレスモーションキャプチャを活用した『セルフブース3D』の運用事例を公開 https://cover-corp.com/news/detail/c20260220
※Captury(キャプチュリー)とは、DARI Motion, Inc.(ダリ・モーション)が提供する、リアルタイムにマーカーレスでモーションキャプチャが可能なシステム。https://www.acuity-inc.co.jp/products/captury/
クリエイティブ制作本部 配信技術部
- N・Nさん スタジオ運営窓口チーム/サブマネージャー・スタジオ運営ディレクター
- Y・Iさん テクニカルディレクターチーム/チームリード・テクニカルディレクター
- Y・Aさん アプリケーションチーム/チームリード
クリエイティブ制作本部 技術開発部
- H・Kさん 第四開発チーム/サブマネージャー
- K・Nさん 第四開発チーム/リードエンジニア
- Y・Kさん 第四開発チーム/ディレクター
「3D配信をもっと身近に」セルフブース3Dが生まれるまで
―まずは、「セルフブース3D」と従来の3D配信はどのような違いがあるのか教えてください。
セルフブース3Dは、普段着のまま身軽に3D配信を行えるシステムです。専用スーツやマーカーを装着する必要がなく、カメラ映像のみで骨格をリアルタイムでデジタル化し、3D配信ができます。これまでのカバーにおける3D配信は、専用スタジオと多くのスタッフによって実現するハイエンドな体験が基本でした。クオリティは高い一方、準備のハードルが高く、どうしても配信頻度に限界があり、生誕記念などの特別な機会に合わせ、年間で2・3回実施するのが一般的でした。ですがセルフブース3Dでは、スタジオの空きさえあれば月に1回、多くて半月に1回といったペースで利用するタレントさんも増えており、用途に応じた活用ができています。


―開発のきっかけは何だったのでしょうか?また、どのようなアプローチでタレントさんへ普及させて行ったのでしょうか。
開発のきっかけは、2025年2月頃、CTO室で「Captury」というトラッキング技術のプロトタイプ検証が完了し、その情報が共有されたことでした。専用のスーツを着用せずとも高精度なトラッキングができる技術で、「これをどう現場で活かすか」という検討が本格的に始まりました。当初はまだ開発チームもなく手探りの状態でしたが、まずタレントマネージャーの皆さんを対象に体験会を繰り返し開催し、「これを使えばこんな配信ができる」というイメージを丁寧に共有していきました。現場を知るマネージャーの皆さんが共感してくださったことで、タレントさん同士の情報共有などを通じて自然と広がっていきました。「まずマネージャー層を巻き込み、現場のニーズを掘り起こす」というアプローチが、セルフブース3D普及への重要な初手になったと感じています。
使いやすさとクオリティの両立への挑戦
―セルフブース3Dの開発にあたって、部署をまたいだ連携はどのように組まれていったのでしょうか?
立ち上げ当初の昨年5・6月ごろは、どういうサポートが必要になるかといった知見がなかったので、全員で手を動かしていた時期が夏ごろまで続いていました。経験値が蓄積されてきた頃に、開発と運用という形で役割を分けていきました。現在は、技術開発部がソフトウェアを作り、それをどう活用するかを配信技術部の皆さんが考えるという分担になっています。
設備の要件や運用面は配信技術部で巻き取りつつ、システムの仕様に関わる部分は技術開発部に相談するという形で役割を分けています。立ち上げ当初に一緒に手を動かしていた経験があるからこそ、今もスムーズなやり取りができていると感じます。
その後、スタジオで実際に配信を実施するにあたって、「どこに電源が必要で、どこに機材を置くのが最適か」といった調整を相談しながら、配信環境を作っていきました。
セルフブース3Dで配信をする時に、どこまでタレントさんをサポートし、どこからをタレントさんにお願いするかという作業分担における線引きは、今も配信技術部と相談しながら常に考えています。
―タレントさん自身がアプリを操作する前提で、使いやすさはどのように追求されましたか?
使いやすさとクオリティのバランスをどう取るか、UIの細部まで吟味しましたね。タレントさんが初めて使うシステムということもあり、導入時には使い方のレクチャーを丁寧に行うとともに、システムとして得意・不得意な動きがあることも事前にお伝えするよう心がけました。
セルフブース3Dではタレントさんご自身に配信アプリを操作していただくため、普段の2D配信に近い感覚で使えることを意識して開発しています。スタジオで私たちが使うリッチなアプリケーションとは別に、手軽さを最優先して作ったことが現場の柔軟性につながっていると感じています。
現在も現場で発生した相談や、タレントさんからの「こんなことがしたい」という要望は常にリサーチしています。それらの需要を優先度順に整理し、技術開発部へ提案として上げていくサイクルを回し、タレントさんにとってより使いやすく、できることが広がるシステムに育てていきたいと考えています。

―セルフブース3D導入前後で、準備や現場の負担はどのように変わりましたか?
劇的に変わりましたね。これまでの3D配信では、仕込みとリハーサルに1日ずつ、本番に1日と、最低でも3日間のスタジオ確保が必要でした。それがセルフブース3Dであれば、基本的には1日で完結します。どれだけ仕込み量が多くても、前日に半日調整する程度で十分です。
人的リソースの面でも圧倒的な差があり、従来の3D配信が半年前から担当者が準備を進めるプロジェクトだったのに対し、セルフブース3Dであれば、依頼から要件の整理、そして実行までを1週間から2週間程度で完結させることも可能になりました。
―実際に運用してみて、タレントさんやファンの方々からはどのような反響がありましたか?
タレントさんからは、「これでいいじゃん!」という声をよくいただきます。これまで本格的な3D配信は、年に数回の特別な機会に行う高級レストランのような存在でした。対して、セルフブース3Dは身近なファミリーレストランとして気軽に立ち寄れる場所だと思っています。3Dでの雑談やゲーム実況を待ち望んでいたファンの方からも、「こういうのでいいんだよ!」という熱い支持をいただいています。
「昔のホロライブっぽくて懐かしい」という声も届いています。当時の手探り感や、試行錯誤しながら企画を形にしていくプロセスが、逆に新鮮に映っているのかもしれません。
一定の要件を満たす広さや環境があればどこでも展開できる可搬性の高さも、セルフブース3Dの強みの一つです。当初の構想では、タレントさんのご自宅にセルフブース3Dの機材を設置できれば、毎日3D配信を行える環境を構築できる、というアイデアも出ていました。「場所の制約を超えてどこでも配信できる」というアドバンテージは今後も私たちの武器になると思っています。メンテナンス面など解決すべき課題はありますが、より柔軟に場所を問わずコンテンツを届けられるよう、検証を続けていきたいですね。
―これまでセルフブース3Dを活用した企画や番組の中で、特に印象に残っている企画はありますか?
象徴的だったのは、兎田ぺこらさんと雪花ラミィさんの「輪ゴムでスイカ割り」企画ですね。1回目はスイカが机から転げ落ちてしまい、全員が不完全燃焼だったのですが、「実はもう1個スイカがある」となり、急遽リベンジ企画を決行。2回目は床の素材や固定方法まで工夫して無事に成功しました。この「タレントさんのやりたいことに、現場が知恵を絞って応える」というプロセスに、セルフブース3Dならではの熱量を感じましたね。


「ダンスを教えて!ベールズ先生!」という企画でホロスターズの荒咬オウガさんがハコス・ベールズさんにダンスを教わる配信は、技術開発の立場として記憶に残っています。セルフブース3Dは、細かい動きや早い動きがやや苦手な特性があるのですが、初心者のオウガさんがダンスをゆっくり一生懸命練習する姿がそのままコンテンツになっていて、システムの特性とコンテンツの内容がうまく合っていると感じました。タレントの裏側を見せるコンテンツとしても非常に強力だと感じた事例です。


―タレントさん自身の企画の幅も大きく広がっていますよね。
そうですね。実績を作ることが最初の一番の課題で、タレントさんへの体験会を経て手応えを感じながら「なるべくサポートするので、まずやってみましょう」という形でどんどん広げていきました。今はありがたいことに提案しなくても使っていただけるようになりましたが、当時はかなり奔走していましたね。
例えば夕刻ロベルさんが年末に生配信を行った「除夜のケツ」は、「セルフブース3Dでやったら面白くないですか」とマネージャーさんに直接売り込みに行って実現しました。
もちろん、スイカ割り企画のように、「これがやりたい」というタレントさんのアイデアや提案をいただき、その企画を実現できるよう尽力することもあります。アプローチは違えど、「技術の可能性を広げ、タレントさんの『やってみたい』を形にする」というところに変わりはありません。


セルフブース3Dは機能そのものを現場と一緒に検証しながら作っているので、タレントさんが「こんなことができるんだ!」と気づくのと同時に、私たちも「まだこんな可能性があったのか!」という発見が続いています。今はまさに、その可能性を追求し尽くすという最高にエキサイティングなフェーズにいると感じています。
タレントさんがやりたいことをスピーディーに叶えられる環境があるという実感は、必ずファンにも伝わると信じています。技術開発部のスタッフとしてもカバーの新しいエンターテインメントの形を切り拓いていきたいですね。
セルフブース3Dが描くこれからの挑戦
―今後やってみたい企画や、まだ挑戦できていないことはありますか?
「(火を使って調理する)料理配信をやりたい」という声はいただいているのですが、スタジオは火気厳禁なため、相談をいただいても断らざるを得ない状況が続いています。ですが、キッチンスタジオのような場所に設備を持ち込めれば実現できると思っていますし、IHで保温する程度の調理ならなんとかなるかな、というところまで来ています。あとはマグロの解体ショーみたいなぶっ飛んだ企画もいつかやってみたいですね。
「ローション相撲もやってみたい」という声も出るんですが、機材への影響を考えるとなかなか難しくて。ただ、そういう無茶な相談をみんなで考えることがすごく楽しくて、どうやったら実現できるかを考えるのが一番燃える瞬間でもあります。
クオリティをしっかり担保しないといけない立場としては、うまくいくかヒヤヒヤする場面も多いですが、それも含めてホロライブ初期のようなわちゃわちゃした雰囲気がとても楽しいです。タレントさんと一緒に新しい配信の形を切り拓いていける、最高に面白いフェーズだと感じています。
―システムをさらに発展させるために、それぞれどのようなことに取り組んでいますか?
開発と現場の間に立つ立場として、引き続き両面の最適化を進めていきたいと考えています。スタジオを使ったハイエンドな生誕3D配信で培った技術のセルフブース3Dへの転用や、配信アプリの操作性とスタッフ側の調整の柔軟性の両立など、やるべきことはまだ多くあります。運用体制の整備も含め、着実に取り組んでいきたいですね。
スタジオ外での活用など新しい環境への挑戦も増えてきているので、それらに対応できるようアプリケーションのアップデートを続け、対応できる領域を広げていきたいですね。
技術面では、トラッキングの品質向上にまだ大きな余地があります。手軽さを保ちつつ精度をどこまで追い込めるか、また従来の3D配信との差分を埋めていく開発にも引き続き取り組んでいきます。
タレントさんご自身もまだ「どこまでできるか」が未知数な部分があると思うので、積極的に提案も続けていきたいですね。技術サポートを充実させ、「これなら挑戦できる」と安心して思えるような環境を整えていきたいと思っています。


―今後、セルフブース3Dはどのように進化し、活用の場が広がっていくと考えていますか。
音楽ライブはもちろんですが、よりバラエティに富んだ企画も叶えられる場にしていきたいですね。タレントさんとともに、僕らも一緒になって企画を育てていけるような、そんな関係性を作っていきたいです。
まだセルフブース3Dを活用できていない社内の他部署にも広げていきたいと考えています。営業やPRの部署が「もっと新しい見せ方をしたい」と思った時に、セルフブース3Dがその選択肢のひとつになれるよう、技術開発部と配信技術部が一緒にサポートしていきたいですね。
タレントの皆さんは、ステージでのキラキラした姿と、日常で見せる素顔のギャップが大きな魅力のひとつだと思っています。セルフブース3Dで日常の一面を垣間見せることで、「ホロライブにはこんなに面白い人がいるんだ!」という新しいファン層を惹きつけるきっかけが増えれば嬉しいです。
選択の主導権は常にタレントさんにあります。だからこそ、私たちは彼らにとってより良い選択肢であり続けられるよう、技術で力になっていきたいです。