
カバー株式会社クリエイティブ制作本部技術開発部です!
今回の記事では、スタジオでの3D配信における3Dモデル実装を効率化する、UnityのEditor拡張作成の取り組みについてご紹介します!
1. 背景
カバーでは、所属タレントの記念配信や大規模イベントの3Dライブを、自社開発の「スタジオアプリ」を駆使して生配信・収録しています。例えば、下記のライブもスタジオアプリを使用した配信です。
これらのライブ制作では、配信ごとのコンセプトに合わせてステージ、衣装、小道具といった3Dモデルを新規に作成・改修しています。3Dモデルには、ライト色の変更、ステージ装飾の切り替え、エフェクトの発火などをUIと紐づける仕組みが入っています。オペレーターがUIを操作することで、ライブ演出を創り上げています。こうした仕組み一つ一つを社内では『ギミック』と呼んでいます。
3Dモデル実装が必要な3D配信は年間で約80本以上にものぼり、それに伴って実装すべきギミックも膨大な量となっています。
2. 解決したい課題
3Dモデル実装が膨大になってきた背景から、「3Dモデル実装工数がボトルネックになってタレントさんの要望を満たせないことをなるべく無くしたい」という目的のもと、下記の課題を解決しようと考えました。
課題1:デザイナー⇔エンジニア間でコミュニケーションコストが高い
- デザイナーの負担:どのオブジェクトの、どのパラメータを、どのように動かすか、といった詳細な仕様をドキュメントにまとめる必要がある。
- エンジニアの負担:デザイナーが作成したドキュメントを読み解き、ギミック実装のためにUnity上の実際のオブジェクトと照らし合わせながら仕様を理解する必要がある。
- この「ドキュメントを介した情報の伝達」は、実装そのものの工数に加えて、認識を合わせるためのコミュニケーションコストを増大させる原因となっていました。
課題2:想定と異なる実装による「手戻り」の発生
▼ 具体的な発生事例
- シェーダー制御の認識齟齬
- デザイナーの意図:パラメータAを操作してほしい。
- エンジニアの実装:誤ってパラメータBを操作するギミックを実装してしまった。
- オブジェクト表示範囲の誤解
- デザイナーの意図:オブジェクトA, B, Cを非表示にしたい。
- エンジニアの実装:オブジェクトA, B, C, Dを非表示にする設定にしてしまった。
これらの問題はQAチェックで発見されるため、配信クオリティは担保されます。しかし、その後のフィードバックと修正対応に工数がかかっており、制作全体のスピードを妨げる一因となっていました。
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3. 解決策:デザイナー自身がギミックを実装するツール「GimmickEditor」
「コミュニケーションコスト」と「手戻り」という課題は、ギミックの仕様を考えるデザイナーと実装するエンジニアが分かれていることに根本的な原因がありました。
当時、ギミックの実装は、既存コンポーネントを手動で組み合わせる形で行っていました。しかし、どのコンポーネントをどう使えばよいか判断するには、それらを制御するプログラムを読み解く必要があります。この作業が、非エンジニアであるデザイナーにとって高いハードルとなっていました。
この問題を解決するため、私たちは「デザイナー自身がギミックを実装する」という方針を立て、専用ツール「GimmickEditor」を開発することにしました。
GimmickEditorとは?

スタジオアプリで使用する3Dモデルは、「3Dモデル作成 → ギミック実装 → AssetBundle化 → スタジオアプリでロード」というフローで実装されます。GimmickEditorは、「ギミック実装」工程をデザイナー自身が担うためのUnityエディタ拡張です。

デザイナーは、下記左の画像のようにGimmickEditorに必要最低限の情報を入力するだけで、3D配信で使うギミックを設定できます。この設定をした3DモデルのAssetBundleをスタジオアプリで読み込むと下記右画像のように、スタジオアプリ側から制御できるギミックとして表示されます。

この「表示/非表示切り替え」はあくまで一例です。現在では、シェーダーの値変更、エフェクトの再生、アニメーションの制御など、20種類以上のパターン化されたギミックに対して、それぞれ専用のカスタムウィンドウを用意しています。
GimmickEditorがもたらす効果
このツールを導入することで、先の2つの課題に対して、以下の効果を狙いました。
1. コミュニケーションコストの削減(課題1への効果)
これまで必要だった「エンジニアへの仕様伝達」が、一部不要になります。 デザイナーが自らギミックを実装できるため、仕様書の作成や、実装依頼のための打ち合わせといったコミュニケーションを減らし、コスト削減を目指します。
2. 「意図通り」の実装の実現(課題2への効果)
デザイナーがUnityエディタ上で直接ギミックを組み込み、その場で見た目や挙動を確認できるようになります。これにより、以下のような状態を目指します。
- 実装ミスの撲滅 「思っていたのと違う」という実装のズレは発生しません。デザイナーが見て、意図した通りのものが、そのまま成果物になります。
- 高速なフィードバックループ 仕様を考えるだけでなく、実装と確認までをデザイナーが一気通貫で行えるため、クリエイティブな試行錯誤を高速に繰り返せます。
4. 工夫した点
- 非エンジニアでも扱えるように
- GimmickEditorは使用者が非エンジニアである前提で開発。
- 操作UIや機能は直感的な理解を重視。
- マニュアルとデモ動画の整備
- 各ギミックごとに説明書を用意。
- 動作デモの動画を添えて、テキストでは伝わりにくい挙動を視覚的に理解しやすく。
- フローの再構築
- 改善前:デザイナーがエンジニアへ実装依頼し、フィードバック時に都度コミュニケーションが必要。
- 改善後:実装から確認までをデザイナーで完結可能にし、コミュニケーションコストと認識の齟齬の発生を抑制できるように。

- 問い合わせ環境の整備
- ツール内からエンジニアに問い合わせできる機能を用意。
- 利用者のリポジトリやブランチを自動取得、Project名とシーン名の手動入力にも対応し、再現環境のヒアリングを可能な限りスキップ。
5. 現在の運用状況
2025年7月から、ギミック実装の主担当をエンジニアからデザイナーへ段階的に移管を開始しました。現在は、従来エンジニアが担当していた実装の約8割をデザイナー自身が担っています。
GimmickEditorの開発チームは、各ギミックの改善要望と不具合報告を受け付け、機能拡充と改善を継続しています。あわせて新規ギミックへの対応や、共通衣装への一括実装機能の追加など、開発を進めています。
実際に使っていただいているデザイナーからは、下記のような感想をいただいています。
- 「デザイナーだけで完結できるようになり、制作時間が短縮されクリエイティブな作業に集中できるようになりました。」
- 「細かいギミック内容の伝達ミスによる実装漏れが無くなり、実装がスムーズになりました。」
- 「想像以上に簡単な操作でギミック作成ができるため、工数面での負担も少なく助かっています!」
6. 今後
機能面での展望
今後も新しいギミックへの対応や既存機能の改善を継続していきます。特に以下の点を重点的に検討しています。
- スタジオアプリを起動せず、ギミック実装環境で全ギミックを動作確認できる仕組みの導入
- Undo機能や作業内容の自動保存機能など使用感を高める機能改善
これにより、より安全で効率的な実装環境を提供できるようにしていきます。
フロー面での展望
GimmickEditor外の機能ですが、AssetBundleビルド時に設定ミスを自動で検出・修正できるツールを開発済みです。これを導入・展開し、動作確認やQA以前の段階で不備を発見して修正およびコミュニケーションのコストを削減することが期待できます。
問い合わせ機能は、オープンな場で進捗や対応状況が共有されるよう通知システムを改善します。これにより利用者の不安を軽減するとともに透明性を高めていく予定です。
7. 最後に:エンジニア採用を実施しています!
今回は、カバー社内における3Dモデル実装の効率化と業務改善の取り組みを紹介させていただきました。
カバーでは最新の技術を駆使して、よりクオリティの高いモーションやグラフィックを実現し、3D配信に活用されています。
一方で、既存技術を活用した業務改善は避けて通れない重要な取り組みです。特にカバーではアプリ開発や3Dモデル実装を内製しているため、より社内の運用に最適化されたツール開発が求められます。
業務改善により、1件の配信にかかる実装工数を削減できれば、新しい演出や表現を追加する余地が生まれます。あるいは浮いた工数により別の配信の制作につながるかもしれません。つまり、直接的に配信画面で見られる箇所ではないものの、結果的にタレントとファンの皆様のより良い体験を下支え出来るのが業務改善の意義だと考えています。
カバー株式会社ではタレントの皆様の配信を支えてくれるエンジニアの採用を行っています。
今回紹介したようにカバーのスタジオでは、業務改善や効率化の取り組みも行っています。
この記事を読んで興味を持たれた方、ぜひ以下のリンクよりご応募お待ちしています。
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