「ボイス商品」をご存じでしょうか。声を中心としたデジタルコンテンツで、ホロライブプロダクションでも毎月さまざまなボイス商品を送り出しています。
カバーでボイス商品の企画から制作までを手掛けるのが、ボイスプロジェクトチーム。
今回は、商品企画本部 IP戦略部 ボイスプロジェクトチームマネージャーのKさんにインタビューしました。
ホロライブプロダクションのボイス商品の魅力や、実際にコンテンツを制作する流れ、また今後力を入れていきたいことなどについて、お話を伺いました。
デジタルコンテンツだからすぐ楽しめる! ボイス商品とは?
ボイスプロジェクトチームが手掛けるボイス商品とは、タレントさんの音声(ボイス)を録音したデジタルコンテンツのことです。商品はホロライブプロダクションオフィシャルショップで購入することができます。
ほかの商品と大きく異なるのは、デジタルコンテンツであるという点。注文してから手元に届くまで時間がかかる物理的なグッズと違って、ボイス商品は購入してすぐに楽しむことができるのが特徴です。
ボイス商品は、いくつかのジャンルに分けられます。まずはシチュエーションボイス。「クリスマス」や「バレンタイン」などのイベントや、「学校の隣の席」「執着」などの設定の上で、タレントさんが聞き手に語りかけてくれる構成になっているものです。推しのタレントさんとイベントごとを一緒に過ごすなど、夢のようなシチュエーションを楽しめるのが大きな魅力です。
ホロライブプロダクション 公式ショップより
また、立体音響を使ったボイス商品も人気です。これもシチュエーションボイスの一種なのですが、高精度なマイクを利用して収録することで三次元的な音の広がりがあり、臨場感や没入感を感じさせるドラマチックなボイスになっています。
他にホロライブならではなのが、 タレントさん同士の関係性や掛け合いを楽しむボイスドラマです。ホロライブには、デビュー同期、配信でのコラボといったやりとりから見えるタレントさん同士の関係性に名前をつける「ユニット」という文化があります。同じユニットのタレント同士で掛け合いするボイスドラマは、事務所を「箱推し」するファンの方からも好評です。
新人タレントを知るきっかけに。「スターティングボイス」
ここからは、ボイスプロジェクトチーム マネージャーのKさんにお話を伺います。
──ホロライブプロダクションには様々なタレントさんのグッズがありますが、中でもボイス商品ならではの特徴や魅力は、どのようなところにあるのでしょうか?
普段から雑談や実況配信をしているタレントさんにとって、声に特化した商品というのは親和性が高いんです。雑談や実況は台本がないからこその面白さがありますが、ボイス商品は台本や編集によって、普段の配信とは違った側面から、タレントさんの声の魅力を引き出すことができると考えています。
──どのような層のファンが購入されるのでしょうか。
VTuberの場合、配信でも声を楽しむことができますが、そこから踏み込んでタレントさんを応援したいというファンの方にお買い上げいただいている印象です。SNSでの感想を拝見していると若年の方もいらっしゃいますね。
──「スターティングボイス」というものもあるんですよね。
はい。2023年から販売している、新しくファンになった方向けのエントリー商品です。所属しているタレントさん全員分を揃えており、さらに新しいタレントさんがデビューする際には、デビューに合わせて販売します。デビュー配信を見て「このタレントさんを推したい!」と思った方がグッズを購入する際、物理商品はどうしても発送にお時間をいただいてしまうのに対して、ボイスはすぐに聞けるというのが強みです。 新しいタレントさんはデビュー前でこちらもタレント性がわからないので、台本は基本的にご自身でご用意いただいています。自己紹介、シチュエーションボイス、着信ボイスのようなものをラインナップに入れる方もいらっしゃいます。ファンの方がタレントさんのことを知る、いいきっかけになっていると思います。
企画立案から販売まで責任を持って同じスタッフが担当
──特にファンの方から反応が良かったボイス商品を具体的にいくつか教えてください。
ここ一年ですと、「デレの極(きわみ)ボイス」 はすごく反響がありました。総勢40名のタレントさんに、ツンデレ、クーデレ、デレデレ、ヤンデレの中から自由にひとつ選んでシチュエーションボイスを録音していただいたのですが、蓋を開けてみるとヤンデレ率が高くて、それがネットニュースなどに取り上げられ話題になりました(笑)。 また、最近発売されたばかりなのですが「キミに執着しちゃうボイス 」もかなり好評です。これはバイノーラルマイクを使用したASMR風のささやきボイスになっています。 「ヤンデレ」も「執着」も、ちょっとびっくりするシチュエーションかもしれませんが、ボイス商品は聞き手が基本的に受け身で、一方的にタレントさんが話すことになるので、自分から積極的に聞き手に迫っていくようなボイスの方が、タレントさんも演じやすいのかもしれません。
──そもそも、ボイス商品はどういう流れでタレントさんに出演オファーをするのでしょうか? 企画から制作に至るまでの具体的なフローを教えてください。
ボイスプロジェクトチームでは、ひとつの企画に対してひとりのスタッフが企画立案から販売までを責任を持って担当します。まず企画書を作って社内でプレゼンし、それが通ったらタレントさんにオファーして、台本を作る…という流れです。 細かいですが、ジャケットイラストの発注や販売ページのバナー作成、プロモーションビデオやXの宣伝ポストも、企画立案した担当者が用意しています。 タレントさんへの出演オファーの仕方は大きく2パターンあります。ひとつはアンケート方式。「クリスマス」や「バレンタイン」のような、たくさんのタレントさんが参加されるものは、事前にタレントさんにアンケートをお送りして、広く参加を募ります。 一方、個別にオファーさせていただくものもあります。普段から皆さんの配信をチェックして、自分が考えている企画に合うタレントさんを探したり、逆に配信を見て「このタレントさんはこういうものが好きなんだな」と知り、そこから企画を考えることもあります。
タレントからのアイデアが生かされた企画も多数
──配信から生まれた企画を、具体的に教えてください。
たくさんあるんですが、ひとつ例を挙げるなら「かなけん」シリーズ ですかね。かなけんとは「かなた建設」の略で、AZKiさん、天音かなたさん、沙花叉クロヱさん(現在は卒業)によるユニットです。
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もともとはマインクラフトというゲームを一緒にやられていて、ゲーム内で兎田ぺこらさんに借金をしたというやりとりがあり、借金返済のためという名目で「天使の止まり木」というASMRボイスを販売したのが最初です(笑)。 その後、「かなけん」シリーズとして起業編、社員旅行編などのボイスドラマも制作しました。社員旅行編はロケ連動の企画で、実際に3名で伊豆に旅行に行かれて、足湯に入ったり宿で寝たりしながら旅先で収録したASMRになっています。
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──斬新なアイデアですね! 他に面白い設定のボイス商品はありますか?
Kさん 最近ですと、儒烏風亭らでんさんの「お前を壺にしてやろうか?」ボイス です。これはASMRなのですが、聞き手の設定が美術館に展示される壺になっているんです。 もともとは「らでんさんに耳元で美術について解説してもらえたら面白いね」というところからオファーした企画なのですが、らでんさんならではの仕上がりになりました。
そうそう、ボイス商品というわけではないのですが、らでんさんも所属されているReGLOSSの2周年記念に合わせたデジタルボイスラリー「ReGLOSS 渋谷さんぽ」 にもボイスプロジェクトチームが収録で協力させていただきました。 渋谷の街の特定のスポットを訪れると、ReGLOSSメンバーのオリジナルボイスが聞けるという企画です。 このように、社内で行われているプロジェクトなどにボイスプロジェクトチームが関わることもあります。
語学の勉強にも! 企画ローカライズの工夫
──現在、ボイスチームでは、海外に向けた展開も行っているんですよね。
そうですね。ホロライブインドネシアのタレントさんで、3ヶ国語のボイスを出されている方もいらっしゃいます。我々もインドネシア語は分からないので、インドネシアのチームに手伝ってもらいながら制作しています。 語学の勉強のために英語のボイスを聴く日本人ファンの方もいらっしゃるようです。日本語の台本PDFをつけているので、英語を聴きながら日本語を追うことができるんですよね。 今後は海外の生活や文化に合ったボイスももっと作っていきたいと思っています。過去の例でいうと、海外出身のディレクターの企画で、9月に「ホロライブEnglish 入学ボイス」 を出すということをしました。最初「なんで9月なんだろう?」と思ったのですが、日本では一般的に4月が入学シーズンですが、海外では9月なことが多いんですね。海外のお客様からとても好評でした。
また、海外だとボイスドラマという文化があまりない一方で、Podcastのようなラジオに近い形式の配信はけっこう聞かれているそうなんです。なので海外向けに、そういう企画もあったら面白いのではないかということで、オーディオブック形式の作品も作りました。
──VTuberのボイス商品というジャンルが、キャラクターやアニメのボイス商品と異なる点はありますか?
ものにもよりますが、一般的に声優さんのボイスコンテンツは台本がしっかり固まっていて、声優さんがそれに合わせてお芝居をする…という形式が多いように思います。私は前職でライトノベルやコミック原作のボイスドラマを作る仕事をしていたんですが、そうしたボイスドラマでは、原作IPを尊重することが大切になります。演じていただく声優さんはすでに決まっているシナリオや台本に合わせて演じるのが基本です。 一方でVTuberによるボイス商品は、タレントさん本人の個性を活かしていただくことを考えます。ご自身で台本を書かれる方もいらっしゃいますし、こちらからシナリオ・セリフをお渡しする場合でも、「私だったらこういう言い方をする」など、タレントさんご自身でアレンジをされることもあります。また、タレントさんご自身が活動の経過とともにどんどん変化していくので、以前と今ではご自身の見せ方や好きなものに変化があるということも。そこが大きな違いかなと思います。チームメンバーはそうした変化を捉えながら企画のご提案をする必要がありますので、日々配信を追うことが大切です。
──最後に、ボイス商品について、ホロライブプロダクションならではの強みやこだわりを教えてください。
立体音響やロケ連動など、いつでも新しいことにチャレンジしようという気迫が強みだと思っています。また、タレントさんと企画の親和性を大事にして、タレントさんの新たな魅力をファンの方に届けたいと常日頃から考えています。 ボイスを購入してくださったファンの方から「このタレントさんの配信、見たことなかったけど、サンプルボイスを聞いたら興味を持つことができた」みたいな反応もけっこういただくんです。新たにそのタレントさんのファンになるきっかけを作るのが、私たちのミッションだと思っています。