
街角で見かける「誕生日おめでとう」「○○周年記念」といった”応援広告”。これらの広告の多くは企業による宣伝ではなく、ファン自身が企画・制作・出資を行う自主的な活動です。VTuber文化においても、こうした応援広告がファンの創造性と熱量を象徴する表現手段として急速に広がりを見せています。
カバレッジでは、実際にホロライブタレントの応援広告を企画・実施した4グループに取材。ファンへのインタビューや事例分析を通じて、ファンが生み出すUGC(ユーザー生成コンテンツ)文化としての応援広告をご紹介します。個人の想いから始まった小さな企画が、クラウドファンディングやSNSを通じてファンコミュニティを巻き込む大きなムーブメントへと発展していく過程、そして国境を越えて展開される国際的な協力関係まで、応援広告が生み出す新たな価値と可能性を探ります。
【取材協力】
電脳桜神社35P企画広報部/さくらみこ活動7周年記念広告
マリン船長海外生誕応援広告/宝鐘マリン誕生日&6周年記念広告
JDON MY SOUL CLUB/ハコス・ベールズ活動4周年記念広告
vivid comedy project/綺々羅々ヴィヴィ生誕記念広告
急成長する推し活市場で注目を集める「応援広告」

近年、推し活の一環として「応援広告」が注目を集めています。ジェイアール東日本企画(jeki)が2025年2月に発表した「推し活・応援広告調査2024」によると、推しの記念日に行うことのベスト3に「応援広告の企画・出資・見学」がランクイン。その認知率は推し活をしている人の間で59%に達し、前年の調査よりも14.7ポイント増加しているとされ、年々認知度を増している傾向にあります。
調査の中では、応援広告のポテンシャル市場は約769億円と試算され、推し活市場規模(約8,000億円)の約10%に相当する規模まで成長。韓国のK-POPアイドルファン文化である「センイル(誕生)広告」を起源とする応援広告は、2019年に放送されたアイドルオーディション番組をきっかけに日本でも本格的に広まり、今やファンによる推し活の重要な手段として定着しています。
また、応援広告実施後、約8割のファンが「イベント参加」や「グッズ・CD購入」など他の推し活が活性化したと回答していました。応援広告を見た人の6割が推しに興味を持ったと答えるなど、ファンコミュニティの拡大にも大きく貢献しています。
このような応援広告の広がりは、VTuber文化とも非常に高い親和性があり、近年注目を集めています。VTuber文化の最大の特徴は、ファンが生み出すUGC(ユーザー生成コンテンツ)の豊富さと、その背景にあるファンの圧倒的な熱量にあります。配信の切り抜き動画、ファンアート、楽曲制作、翻訳活動など、多様な形でファン自身がクリエイターとして活動し、VTuberと共に文化を創り上げています。その中でも応援広告は、ファンの想いを最も可視化した表現形態として広がっています。
2023年冬から本格化。カバーの応援広告支援の取り組み
カバーでも、UGCの1つとしてファンが企画する応援広告を支援しています。
まず、カバーでは二次創作ガイドラインを策定しており、その中で応援広告についても明確なガイドラインを設定しています。公式広告との誤解を招く表現の禁止、応援広告である旨の明記、創作性の重視といった原則のほか、第三者の権利侵害の禁止などの基本的な禁止事項が明示されており、ファンが安心して創作活動に取り組める環境を整えています。
さらに、応援広告の掲出予定をガイドライン上のフォームからご連絡いただくと、掲出ビジュアルの内容チェックやタレントに広告への共有・報告を行っています。最後に、感謝の気持ちを込めてカードとキーホルダーをファンに送付しています。
カバーの応援広告サポートプロセス
1. 企画申請 ファンから応援広告の企画申請をカバーに提出
2. 内容確認 掲出ビジュアルのチェック、掲出者のXアカウント情報確認、掲出時のXポスト共有を依頼
3. タレント共有 ポストを確認した上で、タレントに広告について共有・報告
4. お礼の送付 応援広告を掲示いただいたことへの感謝の気持ちを込めて、ノベルティを送付

こうした応援広告に関する取り組みは、2023年冬頃から応援広告を含む多様な応援施策の問い合わせが寄せられるようになったことをきっかけに始まりました。法務やCR(クリエイターリレーション)チームが中心となってガイドラインの整備を行い、UGC支援の方針が強化され、応援広告に関するルール整備が本格化しました。
応援広告の人気は数字にも表れており、2024年4月の4件から2025年4月には29件と、1年間で約5倍に増加しています。2024年10月からはXでのハッシュタグ「#holocheer」の使用を開始し、タレントが反応したり、広告を見たファンの感想がポストされることで、認知が徐々に高まっています。

現在では駅貼り広告を中心に、ラッピングバス、電光掲示板、宣伝トラック広告など多様な媒体で展開されています。駅広告が最も多い形態となっており、特に秋葉原駅での掲示が多く展開されています。

ファンコミュニティが生み出す応援広告。約40件の応援広告から見える傾向
2025年7月・8月に実施された約40件の応援広告を分析すると、最も多いのは誕生日を祝う応援広告で、全体の半数を占めています。たとえば綺々羅々ヴィヴィの誕生日には秋葉原駅でクラウドファンディングによる広告が掲出され、宝鐘マリンの誕生日では韓国・マレーシア・香港のファンが連携して国際的な応援を展開しました。
次に多いのが周年記念を祝う応援広告です。周年記念広告は年々増加しています。さくらみこの7周年記念では新宿・池袋・秋葉原の3駅で大規模な広告展開が行われ、大きな話題となりました。さくらみこと星街すいせいによるユニット「miComet」の5周年では国内だけでなくシンガポールでも同時に広告が掲出されています。
国内の掲出場所は秋葉原駅、新宿駅、池袋駅、国際展示場駅といった主要駅が中心となっています。特に秋葉原駅は「VTuber文化の聖地」として多くのファンに愛され、最も多くの応援広告が掲出される場所となっています。一方で、タレントの個性に合わせたユニークな場所での掲出も話題を集めています。競馬と関連のあるタレント・輪堂千速の応援広告は金沢競馬場や、ホロライブゲーマーズの応援広告も帯広ばんえい競馬場での掲出など、ファンならではの発想による創意工夫が光ります。
8月25日から31日にかけて、綺々羅々ヴィヴィの生誕記念広告を掲出したvivid comedy projectの代表は「ヴィヴィちゃんの魅力が少しでも多くの方に伝わるようにと思い、応援広告を掲出することを決めました。感謝の気持ちを形にして届けたい、そして街中で偶然広告を見た方にも『こんな素敵な子がいるんだ』と知ってもらいたいという思いがあります」と動機を語ります。
掲出場所に選んだのは秋葉原と大阪・難波。「秋葉原は、カルチャー発信地として多くのファンや観光客が訪れる場所であり、ヴィヴィちゃんを知らない方にも興味を持ってもらえる絶好のスポットだと考えました。大阪は、ヴィヴィちゃんの出身地であり、地元の方にも彼女の活躍を誇らしく感じてもらえるようにという思いを込めて選びました」とのことでした。
「エリアごとに審査基準が異なり、特に駅広告ではガイドラインに沿うための表現調整や、権利確認に時間を要しました。また、我々は初めての応援広告ということもあり予定より準備が遅れたり、やりたかったことができなかったりしました。それでも、秋葉原と大阪それぞれの特性を活かした掲出ができたことで、ヴィヴィちゃんの魅力を多方面に届けられたと感じています」( vivid comedy project代表者)

クラファンからDiscordまで、ファンコミュニティが支える応援広告
こうした応援広告企画では、多様な参加・協力形態が確立されています。大規模な企画ではクラウドファンディングプラットフォームを活用して支援者を募る方法が多く見られ、XやInstagramなどのSNSで企画告知と進捗報告を行うのが一般的です。 海外ではDiscordサーバーを拠点とした集金・運営システムが多く見られ、現地のファンコミュニティが主導する形で国際連携が実現されています。また、企画者がXで「〇〇応援広告企画募集」などのハッシュタグを使って協力者を募集し、デザイナーやイラストレーターといった専門スキルを持つファンとの協働も頻繁に行われています。
電脳桜神社35P企画広報部が手がけたさくらみこの7周年記念応援広告は、東京、大阪、愛知、福岡の4都市に掲出。
代表者は「さくらみこさんが7周年という大きな節目を迎えるにあたり、感謝とお祝いの気持ちを、どうしても目に見える形で伝えたいという思いがありました」と振り返ります。こちらの企画は、クラウドファンディングの活用により実現。場所の選定は、秋葉原は人通りが多くVTuber文化に理解のある層が多いこと、名古屋は関東圏以外のファンにも楽しんでもらうための地域の広がりを意識したこと、そして福岡はクラウドファンディング支援者に福岡在住の方が多かったことが決め手となったといいます。
「SNSでの反応はとても好評で、『見に行った!』『本当に可愛かった!』『みこち7周年おめでとう』といった投稿を沢山見ることができました。現地でフレぬい(hololive friends)などのグッズと一緒に写真を撮ってくださる方も多く、広告をきっかけにみんなでお祝いムードを共有できたのがとても嬉しかったです。特に印象的だったのは、『ずっと好きでいてよかった』という声です。みこちが築いてきた時間が、今もちゃんとファンの中で生きていることを実感できました」(電脳桜神社35P企画広報部 代表者)
また、さくらみこ本人のカウントダウン配信で大きく取り上げられたことで、さらに大きな反響を得ることができたと振り返ります。
東南アジアを中心に拡大。海外ファンが主導する国際的な応援広告
海外ファンによる応援広告企画も活発に行われています。同じく2025年7月・8月に展開された広告の中には、台湾、韓国、マレーシア、香港、フィリピン、タイなど東・東南アジアに掲出されたものも複数見られます。タイのバンコクでは現地名物のトゥクトゥクを使った広告も登場しました。特に韓国・台湾は海外での応援広告文化の中心地となっています。
台湾や香港のファンとも連携し、マレーシアで展開された宝鐘マリン生誕応援広告では、企画者が掲載の動機について「マリン船長が日々届けてくれる元気や笑顔への感謝の気持ちを形にしたいと思い、応援広告を企画しました。また、自分なりに少しでもコミュニティに貢献したいという思いもありました。同時に、より多くの人にマリン船長の魅力を知ってもらいたいという気持ちも込めています」と説明しています。 掲出場所については「マレーシアでも人通りが多く、ビルボード広告の掲出場所として人気のあるエリアを選びました。多くの方に見ていただける場所であることを重視しました」と戦略的な選定を行いました。

クリエイターに関しては、「同じ一味でもあるイラストレーター・Yoshinone先生にご協力いただきました。先生の作品が私たちの好みに合っており、ぜひ一緒に企画を盛り上げたいと思い依頼しました」と日本人のクリエイターに依頼をしたと話します。
海外での広告掲出の場合、その地の文化やマナーに配慮した表現へも細心の注意を払う必要があります。
「マレーシアで公共の場に掲出する内容であること、そして広告会社からのデザイン制限もあったため、掲出内容のデザインは慎重に選定する必要がありました。多くの人の目に触れる広告であることを意識し、表現が適切であるかどうかを何度も確認しながら進めました」(マリン船長海外生誕応援広告 代表者)
台湾のファンコミュニティ・JDON MY SOUL CLUBが企画したハコス・ベールズ周年記念広告では、クラウドファンディングが想定以上のスピードで目標を達成し、実現。応援広告の人気スポットとして知られる台北でのライトボックス広告、高雄でのバス停広告、台中でのラッピングバス広告(前掲)と、様々な形式・都市で広告を掲出しました。

企画者は「業者さんとのやりとりやスケジュールの調整、宣伝のやり方、そして予想外のトラブルへの対応など、本当にいろんなことを学びました」と企画を通じた経験を語っています。 近くに他のメンバーの広告もあったことで、ファン同士や企画チーム同士での交流も盛り上がり、コミュニティの結束がさらに深まったと振り返ります。

ファンの創造性が生み出す新たな文化・応援広告が繋ぐコミュニティと未来
応援広告は一般的な広告とは異なり、ファンの気持ちを形にする新しい表現方法として広がっています。事例や企画者の声からも、VTuber文化の特徴でもあるUGC(ユーザー生成コンテンツ)の一環として、ファンの創造性と熱量を可視化する手段として定着してきていることがわかります。
この活動で一番印象的なのは、今まで知らなかったファン同士がつながるきっかけになっていることです。クラウドファンディングで支援し合ったり、SNSで企画の進捗を共有したりするうちに、自然と新しい交流が生まれています。一度の企画で終わらず、その後も継続的にやりとりする関係に発展するケースも多く見られます。海外でも現地のファンが中心となって応援広告を企画を行い、DiscordやSNSを使った国際的な協力は、言葉や距離の壁を越えた新しい交流スタイルを作り出しています。
こうした応援広告の広がりを見ると、ファンによるUGC活動が、コンテンツを楽しむことと同時に、新たな文化の形成にもつながっていることがうかがえます。応援広告は推し活の新しいスタイルとして、これからもファンの創造性と愛情を表現する大切な手段として発展していくことが期待されます。それに応じてカバーでは、こうしたファンの自主的な活動をサポートするため、安心して創作活動に取り組めるよう、引き続き支援を継続してまいります。
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