「日本発で世界に向けてエンターテイメントで突き抜ける」カバー谷郷社長が描く、VTuber文化とテクノロジーが拓く未来

「つくろう。世界が愛するカルチャーを。」というビジョンを掲げ、エンターテインメントの新時代を切り拓くカバー株式会社。世界最大級のVTuber事務所「ホロライブプロダクション」で知られるカバーの躍進は、いまやグローバル市場からメタバース領域まで幅広く拡大し、テクノロジーとエンタメの融合による新たな可能性を示しています。

「COVERedge(以降、カバレッジ)」インタビュー第1弾は、カバー株式会社 代表取締役社長CEO 谷郷 元昭に、VTuberを「UGC(※)ビジネスの進化形」と捉える独自の視点はどのような未来を創造するのか、上場を果たし「第二創業期」を迎えたカバーが目指す「より大きなチャレンジ」の全容について迫りました。

「日本発で世界に向けてエンターテイメントで突き抜ける」グローバル市場に挑む、VTuber文化の無限の可能性

ー創業8年で世界中に多くのファンコミュニティを有するグローバルコンテンツを生み出しているカバーですが、谷郷さんが創業当初に軸にしていたことや想いはありますか?

創業当初から、「日本発で世界に向けてエンターテイメントで突き抜ける会社」を作っていきたいという思いが強くありました。日本は現在、国内だけでも一定のビジネスが成立しています。これまではそれでもやっていけましたが、10年20年先、日本の人口が大幅に減少していくなか、日本だけに留まったビジネスではやっていけなくなります。私たちの世代はそうした事実に当事者として直面しないため「逃げ切り世代」とも呼ばれ、衰退していく日本経済に真剣に向き合わなくてもなんとかなる、という風潮があります。ですが、自分で会社をやるのであれば日本が抱えている課題に向き合い、子ども世代に対して繋いでいかないといけないという強い思いが当初からありました。

カバーを設立した2016年ごろにバーチャルYouTuberが登場し始め、かつ、ライブ配信市場も非常に盛り上がってました。そこでキャラクターを使ってライブ配信を行うようなビジネスも考えられるんじゃないかとシステムを作り始め、2017年9月にカバー初のVTuber「ときのそら」がデビューしました。それが今のホロライブプロダクションの原型となっています。

そこで日本から世界へ向けてチャレンジするためのテーマとして、日本の強みである二次元コンテンツを選定しましたが、この領域に取り組むことの大きな可能性を改めて感じています。現在、日本から世界でIT×エンターテイメントの領域で戦えている会社は少ないですが、日本アニメ市場はこの10年で2倍に成長し、2022年には世界の日本アニメ市場は約3兆円※1にまで拡大しています。ホロライブプロダクションもその文脈と一緒になっていければ世界にマーケットを広げていける可能性は十分にあります。そのためにも私たちが単独で世界市場を目指すということではなく、アニメ関連をはじめとする様々な企業さんと協力し合いながら、日本発のビジネスを世界に広げていく意識が必要かなと思います。

ー2020年から「hololive Indonesia」や「hololive English」をスタートし、今年7月には北米拠点の「COVER USA」も設立するなど、国内外でビジネス拡大をされていますが、想定に対して現在の手応えや施策を教えてください。

日本国内ではVTuberという存在が少しずつですが一般の人にも認知が広がり、特に若年層やZ世代を中心に認知度が定着してきました。ここからよりメインストリームになっていくためにも現在は国内外でのIPを活用したメディアミックスに力を入れています。

今年7月には「ロサンゼルス・ドジャース」の試合でホロライブプロダクションのVTuberが試合開始アナウンスや歌唱を披露するという世界初のVTuberとMLB球団のコラボ※2を行いました。日本の「読売ジャイアンツ」とも2023年8月にコラボ企画※3を行っています。

1試合で5万人近くを動員できる球団というメインストリームの場にホロライブプロダクションのファンが混じり、お互いのファンが楽しめるイベントを企画することでより多くの方々にVTuberやホロライブプロダクションを知っていただきたいと思っています。国境や文化を越えたコラボレーションによって、VTuberというものが、世代や国を超えて偏見のない形で受け入れられていってほしいですね。

ー2022年にはメタバースサービス「ホロアース」のβ版をリリースするなど、テクノロジーとエンターテイメントを掛け合わせた施策や取り組みも多く仕掛けていますが、そうした施策を生み出す指針となっていることはありますか?

新しいエンターテイメントはテクノロジーによって生み出される、ということですね。

歴史を振り返っても、テクノロジーの進化と新たなエンターテイメントは因果関係が強くあり、「ピクサー・アニメーション・スタジオ」はCGに長けたコンピューター科学者を採用したのが始まりです。新しい技術があり、その技術を応用したエンターテイメントを見たいと思う人々が増えることで、誰も見たことがない創造的なエンターテイメントが生み出されてきました。VTuberも技術が先にあり、生まれたエンターテイメントです。同様にメタバースなど新たなテクノロジーとの掛け合わせで新たな世界が生まれると思っています。

「VTuberもUGCビジネスの進化形」プラットフォーマーとして目指す、クリエイターエコノミーの形とは

ーカバーが目指している世界や、今後世間に浸透させていきたいこと、発信していきたいことを教えてください。

ホロライブプロダクションを通してものづくりへの敷居を下げ、「誰もがクリエイターとして活躍できる社会」を目指しています。そのためにテクノロジーを活用しながら、クリエイターがコンテンツを作るための場を提供しているプラットフォーム企業として価値を提供していくことが私たちのビジョンです。今はYouTube上でのタレントプロダクションという見え方が強く、あまりプラットフォーマーとしての印象がないと思いますが今後メタバースなどを展開していく中で、よりプラットフォーマーとしての側面を見せていきたいと思っています。

例えばフリマアプリの「メルカリ」は、売り手をどうエンパワーメントするのかを徹底し、コンビニで簡単に配送できるなど楽に出品する施策を実施することで買い手も増えるという好循環を起こしていると考えています。私たちもクリエイターをエンパワーメントするツールの開発や設備投資をすることで、より魅力的なクリエイターに関わっていただき、その結果ファンが増え、さらに体制を整えることができるという好循環を生み出していきたいと思っています。クリエイターというのはVTuberやイラストレーター・デザイナーのような方たちだけではなく、切り抜き動画やファンアートなど、VTuberを応援する活動を行っている方々も含まれます。中には、応援活動をきっかけにクリエイティブに触れ、プロになる方もいます。ホロライブプロダクションを楽しむ中で、ファンの方のスキルも自然と高まっていくのは理想的ですね。

ー谷郷さんは携帯サイト黎明期からITビジネスを展開されています。そうした想いに至った経緯には、これまでの事業での経験も反映されているのでしょうか?また、カバーが目指すプラットフォーム企業とは具体的にどういった状態でしょうか?

私は以前、化粧品口コミサイトの運営会社でECの事業責任者を務めたのち、2006年頃GPSを活用したおでかけ情報サービスを運営してきました。これまでの経験や経歴を通しても、UGC※4(ユーザー生成コンテンツ)を意識したコンテンツやプラットフォームの提供というのは大きなキーワードだと思います。私がこれまで手がけてきたUGCビジネスと同様に、VTuberもUGCビジネスが技術の進化に伴って拡大しているものだと認識しています。配信を見たり、コメントや応援をすることでVTuberが盛り上がっていくのは、まさにUGCだと思っています。

私たちはVTuberのためのツールやシステム、ユーザー向けのメタバースサービス「ホロアース」を提供していますが、それらを通してやっていることは、インターネット上にコンテンツを作ってユーザーにアプローチする、というUGCのビジネスです。それらを技術の進化に合わせて拡大させていくことがプラットフォーム企業だと思っています。

ーなるほど。UGCを生み出すためにVTuberを支援するツールを作り、それらを機能させることでユーザーが盛り上がり、IPが成長し、またUGCが発生するという循環が生まれていくのですね。
そうした中で、5年後、10年後に世界もしくは日本でどのようなポジションを目指されますか。

日本や世界において、一般に認知されるアーティストを誕生させていきたいですね。例えば2007年に「VOCALOID™︎」から「初音ミク」が登場し、2024年の現在、”ボカロ発アーティスト”と呼ばれるアーティストが日本を超えて世界でも人気となっています。2017年にVTuberをスタートした私たちも、5年後、10年後にはメインストリームのアーティストを誕生させるプラットフォーマーになっていたいです。技術の進化によってVTuberが登場し、職業としても定着してきた次の段階は、より広い社会に受け入れていただくことが重要だと思っています。ここからトップアーティストが出てきて、「見た目や住んでいる場所に関係なくタレント活動ができるんだ!」ということを若い世代の人たちに目指していってほしいですし、そうしていく中で、数年後に新たなシーンが生まれると思っています。

「新しい仲間も迎えながら、より大きなチャレンジを」第二創業を機にカバーが描く、共に挑戦し続ける組織の未来

ーそのためには社員一人一人が同じビジョンに向かっていくことが大切だと感じます。谷郷さんが経営や組織に対して、今現在強く思っている価値観は何でしょうか?また、カバーで培える経験はどういったことだと思いますか?

私たちはVTuberというこれまで無かった市場を世界のメインストリームにしていくミッションを進めていくために、自分たちも育っていかなきゃいけないと思っています。そのためにも短期的な流行に目を向けるのではなく、例えば10年後の未来に目を向けて行動することを意識して欲しいですね。1人1人が新しい市場を開拓する役割を担っているので、自分自身が育ち、そして下を育てていくという意識が重要だと思っています。

そのためにも、社内コラボレーションは重要視しています。バリューの1つに「枠を超えて結集する」と掲げていますが、カバーには様々な領域のプロフェッショナルの人が集っており、他の分野のプロフェッショナルな人と協力し合いながら成果を生み出す、というのを社員には意識してほしいですね。多種多様な領域で働いてる人がいる会社なので、自身の職種にとらわれず社内コラボレーションにどんどん挑戦してほしいです。

培える経験としては、VTuberというインフルエンス力のある方々と二人三脚しながらビジネスを創造していくことのノウハウは、これからの世界で十二分に活かしていけることだと思いますし、海外の社員も在籍しているので、日本発で世界にチャレンジできる会社としてグローバルなコミュニケーションを学べるのもとても大きなチャンスだと思います。

ーありがとうございます。最後に、今の等身大のカバー株式会社を一言で表すとしたら、どんな言葉を選びますか?

「第二創業」ですね。
2023年に上場も果たし、今まさに新たなスタート地点にいると思っています。これから本腰を入れて海外展開をしたり、日本でもさらにVTuberをメインストリームに乗せていくような挑戦がありつつ、メタバースという長期戦となる施策も仕掛けていきます。まさに、第二創業のタイミングだと感じます。これから出会う新しい仲間も迎えながら、より大きなチャレンジをしていきたいですね。

ーオウンドメディアの第一記事として、谷郷さんのお話を伺え、会社として今後進む方向にさらに期待が高まりました。本日はありがとうございました。

「第二創業期」を迎えたカバー株式会社。VTuber文化を世界のメインストリームへ、そしてその先へ。テクノロジーで新しいエンターテイメントの形を作り出すカバー株式会社がエンターテイメント業界にどのような変革をもたらすのか、その歩みを今後も「COVERedge」で発信していきます。どうぞご期待ください!


※1 参考:一般社団法人日本動画協会「アニメ産業レポート2023」より
※2 参考:世界初!VTuberと「ロサンゼルス・ドジャース」とのコラボレーション企画「hololive night」開催レポート 
※3 参考:「ホロライブ」が日本のプロ野球球団「読売ジャイアンツ」と初のコラボレーション!

※4 UGC:User Generated Content(ユーザー生成コンテンツ)の略称。サービスユーザーである一般消費者が発信するコンテンツを指します。(例:切り抜き動画、自作ゲームなど)

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