タレントの創造性を形にし、音源やライブを通してたくさんの人の心に届けるカバーの音楽事業。ファンとの絆やタレントの持つ文脈を大切にした個性あふれる楽曲から、ファンダムを飛び出しグローバル規模で評価を受ける楽曲まで、多彩な作品を生み出してきました。
ホロライブプロダクションの拡大とともにカバーが管理する楽曲は増え続け、現在1000曲を超えています(2026年3月時点)。タレントがソロ名義でアルバムをリリースしたり、ソロライブを開催したりする事例も増えてきました。
「COVERedge」ではその中でも、2025年11月にEPアルバム『Re:Start』『Re:Birth』をリリースし、ソロライブ "Departure" を開催したAZKiさんにフォーカス。
AZKiさんはイノナカミュージック(※)やビクターエンタテインメントを経て、2025年から音楽活動をホロライブプロダクション内に戻し、新たなスタートを切ったばかり。
前後編の前編となる今回、AZKiさん目線から、アルバム制作・ソロライブを振り返っていただきます。
Profile

「Virtual Diva AZKi 仮想世界の歌姫!音楽と歌うことが大好き!」
2018年11月15日デビュー、ホロライブ0期生。音楽活動については、星街すいせいと共に在籍したホロライブ内の音楽レーベル・イノナカミュージックでの活動後、2022年にホロライブ本体に移籍。
2023年7月、ビクターエンタテインメントからのメジャーデビュー。2025年6月に再びホロライブ本体へ戻り、今回のEPリリース、ソロライブ開催を行った。
思い出を大事にしながら、「今までにないAZKi」を
――改めて、『Re:Start』『Re:Birth』という2枚のEPをリリースすることになった経緯を教えてください。
2枚のEPという形式自体は、もともとはカバーの音楽制作部の方にご提案いただいたものです。今回はちょうどホロライブに戻ってきて初の制作ということもあり、私としても初期の曲を改めて聴いてほしい気持ちと、今だからできる曲を聴いてほしい気持ちと両方持っていて。イメージは合致していると感じたので、その方向で進むことになりました。
――リアレンジ盤『Re:Birth』収録曲について、改めて歌ってみていかがでしたか?
『Re:Birth』収録曲は、AZKiの音楽活動の中でもターニングポイントになった曲が中心となっています。ただ自分にとっての思い出が強すぎる曲よりも、客観的な視点も大事にしたくて、音楽制作部の方々と一緒に決めていきました。今回のEPで初めて聴く人にも『いいな』と思ってもらえる曲はどれか、という視点も大事にしていました。
レコーディングにあたっては、当時のことを思い出しつつ、過去の自分の歌にダメ出ししたくもなりつつ(笑)。もちろん当時の歌にもよかった部分はありますが、今の自分が歌うことに意味があるのかなとも思っていて。かなり率直な、今のそのままの自分の歌声で歌った感覚ですね。

――『Re:Start』の新曲制作の方向性についても教えてください。
意識していたのは「今までにないAZKi」ですね。たとえば『オキドキ』のようなミドルテンポの曲は、あまりやってこなかったもの。これまでいろいろな曲を作ってきましたが、まだ挑戦していなかったことをやっていこう、と考えていました。表題曲の『未来カンパネラ』はコンペ形式でしたが、自分からもかなり意見を出させていただきましたね。
――『未来カンパネラ』は『Re:Start』の1曲目であり、ライブ「Departure」でも1番最初に歌っていましたね。
はい。ホロライブに戻ってきて1曲目(※)ということもあり、自分のこれまでの気持ちを込めつつも、未来に向かっていく背中を押してくれるような曲でありたいなと思っていました。コンペでいただいたいろいろな楽曲をお聴きした上で、イメージにもっとも合う歌詞やメロディの運び方だと思うものを選ばせていただきました。
※『未来カンパネラ』は2025年7月1日、EPの発売告知に合わせて先行リリースされた。
作詞・作曲は「自分の気持ちを伝える」ための手段
――『The Last Frontier』のオリジナルver.と5th fes. Live ver.がそれぞれボーナストラックとして収録されていることも、2種のEPのコンセプトの説得力を強めていると思います。オリジナルver.は2021年の星街すいせいさんの1stソロライブでともに歌われ、2024年の「hololive 5th fes. Capture the Moment」では歌詞を変えて、やはりともに歌われました。
この曲はもともと、イノナカミュージック時代にすいせいさんと一緒に何もできなかったことに対して後悔を残したくない、そんな思いがあって自分で作詞作曲した曲でした。そこから時が流れ、2022年で活動を終えるはずだった私は継続を選び、すいせいさんも活動を頑張ってこられて、その結果「5th fes. 」でまたこの曲を一緒に歌えることになります。そのときに、すいせいさんが歌詞の一部を更新してくれたんです。
すいせいさんが歌詞を書き換えてくれたことで、自分としては彼女に贈ったつもりだった曲を、贈り返してもらったような感覚でした。「ニクいな、星街!」と思いましたね(笑)。『The Last Frontier』は時間と共に成長し変わっていく曲だなと今改めて感じていますし、今回のEP2枚のテーマにもすごく合致していると思って、収録させていただいています。

――音楽を大切にしているおふたりだからこそ、音楽を通した気持ちのやりとりに心打たれたファンの方は多いと思います。
ちょっとこそばゆいですけどね(笑)。ただ、それが私たちがお互いに対してきる精一杯のことだったのかなと、今にして思います。
――この『The Last Frontier』や、作詞を担当された『from A to Z』をはじめ、AZKiさんは折に触れてご自身で詞や曲を書かれています。ご自身にとって、作詞・作曲はどのような機会となっていますか?
話して伝えるのとはまた違う形で、自分の気持ちを伝える作業だと思っています。曲を聴いてくれたときに気持ちが伝わるものでもありたいし、その人を励ますものでもありたいですね。そんなことを考えているので、作詞の方が頭を悩ませることは多いです。メロディは降ってくるタイプなので、夜な夜な布団の中で「あ、このメロディ良いかも」というものが降りてきたらボイスレコーダーに録音したりしています。
――昔書いた詞に対して、「今の自分だったら違う言葉選びをするだろうな」と思うことも?
ありますね。基本的に曲作りはそのときの思いが詰まっているので、後から聴くとちょっと恥ずかしい気持ちになる部分もあります。でも当時は確かにそういう気持ちを持っていて、それを自分やいろんな人に届けたかったということなんですよね。最近だと『Farewell』という曲を書いて「Departure」でお披露目したんですが、そのときそのときの気持ちを残して、誰かの記憶に残るような曲を作りたいという思いは、今もひとつの軸として持っています。
これまでの道のりを伝えるプレイリスト作り
――続いてソロライブ「Departure」についてお聞かせください。AZKiさんにとって自身初のアリーナライブとなりましたが、無事に終わった今、どんな気持ちでしょうか?
デビュー当時から応援してくれている人から最近出会ってくれた方まで、すべてのファンに向けて、7年間をこのライブに詰め込んで届けたいと思っていました。だからこそ、まずはこのライブが無事に開催できたこと自体に感謝の気持ちがあります。そしてもちろん、この大きな舞台で歌わせていただけたことにも感謝したいです。
――当日はどんなことを考えながらスタートに立ちましたか?
正直な所、まずは健康な状態で無事に当日を迎えられることを第一に考えていました。もちろん準備期間のレッスンやリハーサルもそうですが、当日はスタッフ・関係者のみなさんが力を貸してくださって、ファンのみなさんも貴重な時間を割いて見てくださっていますから。それから「ちゃんと伝わるかな」という緊張や不安もありましたし、それ以上にこの大きいステージで歌えることを楽しもうという気持ちもありましたね。
――AZKiさんはこれまでにたくさんのライブ経験を積まれてきましたが、緊張するものなんですね。
します(笑)。当日、開場してどんどん席がお客さんで埋まっていく様子なども楽屋から見ていたので、少しずつ「いよいよだ」という実感が湧いていきましたね。今回冒頭の演出が「床に置いてあるマイクを拾い上げてアカペラで歌い出す」というものだったんですが、あのあたりがまさに1番緊張していました。でも始まってからは流れに身を任せられる部分もあって、自分の思いをしっかりこめて歌うことに集中できていたと思います。

――改めて、ライブタイトル「Departure」にこめた思いを教えてください。
これまでへの決別と、これから歩んでいく未来を表現するにあたって、それを綺麗に表せる言葉をライブ運営部の方々と一緒にたくさん調べました。その中でも、変にひねらず素直なものが良いと思って、「出発」という意味を持つ「Departure」になりましたね。決別といってもこれで終わりではなく、ここからまた新たなスタートを切るんだという意味合いは、特に入れたかったものでもあります。
――そのコンセプトは、セットリストにも顕著に表れていると感じました。
これはステージ演出などにもつながってきますが、これまで歩んできた道のりをこのライブでみんなにわかりやすく伝えたかったんです。AZKiの活動はもともと終わりを決めた状態で始まったものだったんですが、結果として私は、活動を続けていく道を選びました。活動が終わるはずだった世界線をルートα、続けていくことにした世界線をルートβと呼んでいます。さらにその先ではルートγとして、ビクターエンタテインメントからメジャーデビューをさせていただきました。これら3つのルートの楽曲をきちんと辿った上で、未来へ向けた新たな出発であるhololive RECORDSでの楽曲も届けたい。そうした思いで選曲・曲順を決めていきました。

――セットリストを決める際は、悩まれましたか?
悩みましたね。悩んだ結果が序盤の6曲メドレーです(笑)。あれはAZKiの始まりの曲たちなのでどうしても歌いたかったんですが、全てフル尺で歌うと公演時間をオーバーしてしまうので、メドレーという形を取りました。怒涛の始まり方になりましたが、思いは詰め込めたかなと思います。
「新たな出発」の観点で言うと、新曲2曲が象徴的だったのかなと思います。ひとつめの『Going My Way』は、ゲストの星街すいせいさんとのユニット「AS_tar」として制作した曲。第2回のインタビューでお話したように、すいせいさんとは“イノナカ組”として紡いできたこれまでの歴史もあります。そんな彼女と、新たなユニット“AS_tar”として未来に向けた新曲を歌えたこと。
もうひとつは、このライブのために書き下ろした『Farewell』。このソロライブで伝えたいことを自分の中で何度も考えていたときに、「言葉にするより歌で伝えたいな」と思って、スケジュール的にはかなりカツカツだったんですがなんとか作っていただきました。
開拓者に「連れてきてもらった」ステージ

――パフォーマンスやMCの言葉からも、「過去を大切にしているからこそ、決別すべきもの・感情とは前向きにお別れする」という強い覚悟のようなものが感じられました。改めて、今回のライブはご自身にとってどのような機会になりましたか?
2018年から活動してきて、紆余曲折あった中でこのステージに立てたことは本当に自分にとって大切な糧になりましたし、この素敵な景色を一緒につくってくれた開拓者の方々への感謝が一番大きいですね。私が1番最初、秋葉原エンタスでライブをしたときと比べると100倍くらいの規模だったんですよ。こんな大きなステージに連れてきてもらって、一生忘れられない感動を味わわせていただいたと思っています。
――「自分が連れて行った」ではなく、「ファンに連れてきてもらった」なのがAZKiさんらしいと思います。今回のライブを経て、今後の活動における目標はありますか?
配信活動の方で私を多くの方に知っていただくきっかけになったのが、「GeoGuessr」というゲームなんです。そこから地図好きが高じて「AZKi’s LOCATION!」という企画を行い、名前から勝手にゆかりを感じている香川県の小豆島に行ったんですよね。なのでその流れで……というわけではないですが、いつか旅行と音楽を結びつけたイベントができたらいいなとは思っています。
パッケージツアーのような形で、小豆島観光をした後に高松のあなぶきアリーナ香川でライブを開催するとか。旅先の思い出のひとつに音楽が入ってくるような、そんな体験をつくれたらいいなと思っています。
――今回のEP・ライブ制作を経て、改めて今後のhololive RECORDSに期待することを教えてください。
私の活動初期と比べるとホロライブの音楽制作の体制は本当に大規模になっていますし、ノウハウもたまっていると感じています。それらを活かして、より多くの人を感動させられる楽曲・ライブを具現化していく様子を、今回間近で見させていただきました。今後もみんなの記憶に残る楽曲やライブを、ホロライブメンバーのみんなやhololive RECORDSのみなさんと一緒につくって、感動を届けていきたいなと思っています。
――最後に、AZKiさんの歌や音楽が持つ可能性について、ご自身が感じていることを教えてください。
私自身もこれまでの人生で音楽に救われることがあったからこそ、自分が歌を歌ったり音楽をつくることで、誰かに何かを届けられたらいいなと思っています。そして、それを表現する場という意味でも、ライブという機会を大切にしています。
VTuberの面白いのが、日々の配信で起こるファンとのコミュニケーションから生まれる音楽があって、それがライブで歌われて、というふうにつながっていく面があるんです。昔の私は配信にあまり積極性がなかったんですが、 今はそれをすごく感じていて。何気ない日常を大切にしつつも、誰かの心を救えるような音楽をつくっていけたらいいなと思います。
