タレントの想いを支えながら、体験を最大化する。ライブ制作インタビュー

カバー株式会社の音楽・ライブ事業にフォーカスした本特集。

前編では、ホロライブプロダクション所属のAZKiさんに、2025年11月にリリースしたEP『Re:Start』『Re:Birth』の制作と、開催したソロライブ「Departure」に込めた想いをインタビューしました。
後編では、カバー社員にインタビュー。タレントの想いをサポートし、ファンの体験を最大化するためのソロライブ制作(Oさん・Hさん)について、広く聞きました。

タレントの思いを正確に届け、感動を最大化する。ライブ制作の裏側

――まず、カバーのソロライブ制作の概要から教えてください。

ライブの企画から制作、運営、販売まで、全領域をカバーが管轄しつつ、各協力会社様にお手伝いをいただいている形です。今回の「Departure」に関しては20社強ぐらいに関わっていただきました。

カバー社内のライブ制作メンバー関しては現在約20名のメンバーがおり、その中で複数プロジェクトチームを組成し各公演を担当しています。協力会社含む制作チームは、ライブの世界観やコンセプトなどタレントが見せたいステージを表現できる協力会社様へお声がけしております。

――一方で、社内からは1公演につき何名ぐらい関わっていらっしゃいますか。

社内からはさまざまな関わり方があって、この公演にリソースの多くを割いていた人もいれば、スポット業務のみ担っていた人もいます。そういった社内外全てのスタッフを含めると、60~70名ほどの方々がこのライブに関わっていました。部署で言うと、社内のほぼすべての部署が関わっていると言えると思います。

――それでは「Departure」を例に、ライブ本編の制作の流れを教えてください。

まずはAZKiさんにヒアリングを行って、今の気持ちや、今回のステージで表現したいことを聞いていくところからがスタートでした。そこでAZKiさんからいただいたキーワードや、ライブにおけるストーリーの根幹になっていく流れなどを抽出していきます。

そこからはセットリストや構成をプロット化し、資料という形で可視化して、互いの方向性にブレがないかAZKiさんと確認し合いながら、内容やセトリを確定させていきます。

その先に関しては演出や照明に関する打ち合わせ、撮影監督とのカメラワークの打ち合わせなどを行い、一つひとつの場面に意味を持たせるよう設計をしていきます。今回は生バンド演奏でしたが、奏者の方々と曲の構成やアレンジの方向性を決めたりするのも制作プロデューサーの大事な仕事です。

――今回、AZKiさんにとっては過去最大規模の会場となりました。これまで応援してくださった方々もいれば、新たに見に来る方々も多かったと思いますが、双方に楽しんでいただくために意識していた点はありますか?

その点については、特にセトリや演出の部分に表れていたように思います。今回は一番最初にリリースした楽曲から最新の曲までを、順番にストーリー仕立てで展開していきました。

AZKiさんの7年間の軌跡を表現するにあたって、ひとつわかりやすいものとして上部の装飾に映っていたα、β、γの表示があります。これは開拓者(AZKiさんのファンネーム)のみなさんにはなじみ深い、AZKiさんの活動における重要な要素「ルート」を表しています。各ルートを象徴する楽曲を選んだり、当時のAZKiさんの姿を出現させたりして、AZKiさんが抱えている葛藤を表現していきました。

ただそれだけで終わってしまうと、単純な別れや消失のようにも見えて、人によっては寂しい印象を抱かせてしまうかもしれません。そこで過去のAZKiさんが光となってステージに混ざり合い、次第にステージに花々が咲いていくような演出にしたのですが、ここにはひとりのアーティストの成長プロセスの表現に昇華する狙いがありました。

加えて今回は、かなり早い段階でバイオリンを取り入れることを決めていました。それによって過去曲からも新しい一面を引き出し、今回のライブでしか味わえない体験ができるのではないかと。バイオリンは、おそらくホロライブプロダクションの音楽ライブでは初めての事例だと思います。

アカペラで歌い始めたAZKiさんにバイオリンが寄りそう1曲目「未来カンパネラ」

配信と現地、それぞれの魅力

――ホロライブプロダクションの音楽イベントは基本的に配信もあります。ライブ全体として、配信向けの演出やサービスで意識している点はありますか?

会場と配信とでまったく同じ体験というよりは、むしろ別々の楽しみが生まれるよう心がけています。そのためにタレントの仕草や表情がしっかり見えることはもちろん、配信サービスでしか見られない一面を見せていくことも重視しています。

例えば「Departure」の『雨のち晴れ晴れ』では、過去のAZKiさんがどんどん走り抜けていくような演出映像がありました。配信ではその映像が透かしで重なって、実際にステージに立っている今のAZKiさんと同じ画角の中で見られるようになっています。

会場はお客さんの見る位置によって見え方・聞こえ方が変わってきますが、配信では「この公演を通して我々が見せたいものを、100%に近い形で届ける」という点に注力しています。カメラワークにおいても、本番前に1回全体の流れを撮影監督――画角やカット割りの方針を決める方なんですが――その方と打ち合わせをして、「この曲のサビの頭は動きのあるカメラで撮ってほしい」「この曲におけるこの振り付けはインパクトがあるのでアップで撮ってほしい」など、制作プロデューサーから全曲必ずディレクションをしています。

ちなみに、配信に使用しているカメラは大きく分けて3種類あります。ひとつは、実際に会場やステージを撮影する会場に設置するカメラ。2つめがバーチャルカメラといわれるもので、タレントの3D周年記念配信ライブで使われるようなカメラ。3つめがARカメラで、これは実際の会場にARで合成を行いながら撮影するカメラです。

例えばバーチャルカメラと会場に設置するカメラでは質感が若干違いますから、映像を切り替えた際、視聴体験にノイズを与えてしまう。この2つの間にARカメラの映像を挟むことで、そのノイズを緩和しています。

――現地に行けない代わりに、ではなく、配信は配信で現地とは異なる魅力を届けているんですね。逆に、現地ならではの魅力はどんな所にあるのでしょうか。

まずはタレントと一緒の空間にいるということがかなり重要なのかなと思っています。同じ空気感、同じ体験を、同じ時間軸で味わう体験はあの場でしかできないもの。普段の配信ではコメントを書いて、それに対してタレントがリアクションをする形ですが、歓声を直接自分の推しに届けられる場でもあります。

――曲中のコール&レスポンスやMC中の声出しですよね。あとは白上フブキ1stソロライブ 「FBKINGDOM “ANTHEM”」や宝鐘マリン1stライブ「Ahoy!! キミたちみんなパイレーツ♡」でも見られましたが、エンドロールのインストBGMに合わせてファンが自然発生的に歌い出すという温かい現象も、ときどき発生しています。

VTuberのライブは、様々な出演方法がありますが、弊社主催のライブでは実際にタレントが会場にきてステージに立っています。ですので、ファンのみなさんのそうした肉声は直接タレントに聞こえています。みなさんの思いがしっかり届いているということは、どうしてもお伝えしておきたかったんです。

――となると先ほどHさんがおっしゃった「同じ空気感、同じ体験を、同じ時間軸で味わえる」というお話は、ファンだけでなくタレントにとっても共通する醍醐味なんですね。

そうですね。タレントご自身にとっても非常に価値が高い、かけがえのない体験になっていると思います。自分を愛してくれる人があれだけたくさん同じ空間に集まって、ステージに立つ自分を見てくれるのはそうそうないことですから。

――これまでたくさんのライブイベントを手掛けてこられた中で、特に大切にしているポイントを教えてください。

私たちがもっとも大切にしているのは、観客にとっての没入感です。ファンへ届けたい姿を構成・セットリストに落とし込み、これまでリリースしてきた楽曲を披露する最適なステージを一貫して制作することにより、タレントのこれまでの活動を振り返りながら、ライブでしか味わえない感動を届けることがミッションだと思っています。
また、それぞれのタレントの狙いや世界観を常に新しい形で見せていくことも欠かせません。没入感の話もそうですが、見てくださる方々のおかげで、ホロライブプロダクションの音楽ライブがきちんと進化しているということを伝えていきたいなと思っています。

「Departure」オフィシャルレポートはこちら

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