
カバー株式会社の社外取締役を務める須田 仁之さんは、ソフトバンクグループ株式会社での事業立ち上げからベンチャー企業のIPO支援まで、IT業界黎明期から駆け抜けてきた経営のスペシャリストです。カバー株式会社 代表取締役社長CEOの谷郷元昭とは20年以上の付き合いがあり、イマジニア株式会社時代の先輩後輩という関係を経て、カバー設立前から現在まで相談役として携わってきました。
VR企業からVTuber事業へと転換を遂げ、今や世界で熱狂的なファンを獲得し、グローバルエンターテインメント企業へと成長する、カバーの軌跡と未来について、須田さんからお話を伺いました。
「壁打ち相手から社外取締役へ」20年来の信頼関係で築くカバーの基盤
ー様々な会社で社外取締役や顧問などを務めている須田さんですが、これまでのキャリアについて教えてください。
早稲田大学商学部卒業後、イマジニア株式会社を経てソフトバンクグループ株式会社に入社し、『スカパー!』の経営企画、ブロードメディア株式会社のIPO、『Yahoo! BB』の立ち上げなど、様々なプロジェクトに携わりました。ソフトバンクグループ株式会社退職後は、株式会社アエリア、弁護士ドットコム株式会社、株式会社クラウドワークスなど、ベンチャー企業のIPOに携わってきました。その後、複数の企業で顧問や役員を務めており、現在はカバーを含む6社で社外取締役等を務めています。
ー社外取締役とは主にどのような活動をしているのでしょうか?
社外取締役は企業の経営を監視し、株主の利益を保護する役割を担っており、取締役会での経営の監視が基本的な業務となります。
カバーには創業期から社外役員として参画しています。私の場合、社外取締役を務める会社は経営陣との関係性が深いことがほとんどです。最初は「気さくなお兄さん」みたいな立場で起業家からの相談に乗ることが多いですね。起業家は私の実経験(ソフトバンクグループ株式会社のようなクレイジーな事業成長環境、株式会社アエリアでの株式上場)から、ベンチャー企業成長のエッセンスを学び得たいのだと思います。
時が経って会社が成長していくと、「相談お兄さん」から社外役員の立場へと変化していきますね。
ー様々な企業にとって、IT企業黎明期を駆け抜けた須田さんは心強いメンターでもあるのですね。谷郷社長とはいつ頃出会ったのでしょうか?
谷郷さんとの出会いは、私が1996年に新卒入社したイマジニア株式会社時代にさかのぼります。当時約40人規模の会社で、新卒二期生として谷郷さんを含む10人ほどが入社してきました。その後も、イマジニアの同期が立ち上げた株式会社アエリアに谷郷さんが業務委託として参画するなど、会社を離れた後も接点がありました。谷郷さんが株式会社サンゼロミニッツを立ち上げた際も私は役員を務めましたし、2016年にカバーを設立する準備期間中は、週1回ほどの頻度で壁打ち相手として関わっていました。今では、週1回の本部長会議や年1回の経営合宿にも参加するなど、積極的に連携を図っています。
カバーの役員就任も谷郷さんと長年の信頼関係があったからこそ、二つ返事で引き受けました。いわゆる「旧知の仲」ですね。人と人なんてなかなか分かり合えないものなので、とにかく「長い付き合いが重要」だとこの年になって私も感じているところです(笑)。

ー20年以上の交流があるのですね。社外取締役として谷郷社長と接していく中で、関係性に変化はありましたか?
あります!カバーの創業当初は後輩としてフランクに接していましたが、最近は敬語でのコミュニケーションを基本にしています。あと、最近は平日よりも土日によくメッセが来ますね(笑)。恐らく平日のバタバタ業務に追われているときよりも、冷静な頭で思考しているんだと思います。仕事絡みのことがほとんどですが、今でもたまにプライベートなネタが届くこともありますね、週末の時間の使い方とか。私の立場としては基本即レスするようにしています(笑)。また、昔から私よりも感度が鋭いタイプで、売れる前のコンテンツを教えてくれますね。(新海誠作品、『ソードアート・オンライン』など)インドア派な谷郷さんと陽キャな私、という対照的な性格も、ある種、補完的な良い関係性を築く要因になっていると思います。
谷郷さんはいつまでも若い感性と向上心を持ちつつも、一方で日々積まれていく経験を意思決定に活かしています。ある種「矛盾した二面性思考」みたいなもので、これは年を取れば取るほど難しくて、この「思考力」を継続していることは谷郷さんの経営者としての強みになっていると感じています。
「一過性のブームで終わらないエンタメの提供が使命」カバーに期待するグローバル市場への挑戦
ー創業当初のカバーの印象と、その後の転換点について伺いたいです。
2016年創業当時のカバーは、渋谷の雑居ビルで「VR卓球ゲーム」を開発していました。その後、VTuber事業への転換を図る流れもリアルタイムで見守っていました。当初は明確な方向性が見えていませんでしたが、音声アプリの研究やイラストレーターの調査を重ね、世界初のバーチャルYouTuber「キズナアイ」の登場という時代背景も相まって、徐々にピースが組み合わさっていきました。
会社として大きな転換点となったのは、2017年12月に開催された「IVS(Infinity Ventures Summit)」に谷郷さんが登壇したことでした。「IVS」でのプレゼンをきっかけに、スタートアップ界隈にカバーの名前が広まり始めました。それまでは投資家からVTuber事業についての理解を得るのが難しい状況でしたが、IVSでのプレゼンを機に状況は一変し、その日のうちに資金調達について多くの話が寄せられました。
ファンとの接点として最も印象に残っているのは、「ホロライブプロダクション」が初めて開催した豊洲ピットでのコンサートです。当時はコンサートの実施に対して半信半疑な部分もありましたが、会場でペンライトを持った観客の熱狂を目の当たりにして衝撃を受けました。
そのコンサート中に、機材トラブルでライブが一時中断したんです。ライブ中に無音状態が続くって、なかなかの異常事態ですよね。しばらくすると会場から「(ライブ運営)がんばれー!」みたいな声がポツポツと上がり始めました。そこへ誰かが「YAGOO、がんばれー!」と声を上げると、いつの間にか会場全体が「YAGOO!YAGOO!」という熱狂的なコールに変わっていったんです。いやー、その時の一体感には鳥肌が立ちましたね。
その後、「ホロライブプロダクション」はグローバル展開を含む事業として順調に成長していきました。上場までの道のりは、振り返ってみれば比較的順調だったように見えますが、実はトラブルが常に絶えない状況でした(笑)。そんなトラブルも含め、会社として様々な経験を積み重ねて成長してきたという印象です。また、業界に競合が存在したことも、市場の成長にとってプラスに働いたと考えています。

ー創業当初から変わらないカバーの特徴や印象はどういったところでしょうか?
谷郷さんも福田さんも、インターネット業界での長いキャリアがありますが、二人ともコンテンツへの深い愛着を持っていることは当時から特徴的でした。良質なコンテンツを作り、人々を楽しませるという基本姿勢は創業時から一貫していますね。あと二人とも基本的に人柄が柔らかいですね。会社の規模が大きくなって、私も現場の雰囲気等を把握できる立場ではなくなりましたが、何となくカバーの社員は当時から人柄の柔らかい方が多い印象です。
また、常に高い目線を掲げているところも変わってないですね。谷郷さんとの会話の中ではソニー、任天堂、ファーストリテイリング、韓国のコンテンツ企業など、グローバルで成功を収めている企業が頻出します。これらの企業の経営戦略や姿勢を常に意識しているんだなと思いますし、カバーが目指す高みを示していると感じています。
ー様々な会社に携わってきた須田さんですが、カバーにはどのような期待を寄せていらっしゃいますか?
日本のIT業界は内需メインで海外売上の創出が出来ていないことが大きな課題です。また、IT×エンタメ業界を振り返ると、ガラケー時代の着信メロディやソーシャルゲームなど、一過性のブームで終わってしまったものも少なくありません。
「VTuber」は『YouTube』というグローバルプラットフォームを活用しながら、IT技術とキャラクターを組み合わせた日本発の「新しいエンターテイメント」です。その中でも「ホロライブ」は既に海外でのファンも多く、グローバル市場での更なる成長が期待されています。そんな、国境や世代を超えて愛され続けるエンターテイメントを、これからも提供し続けることが使命だと感じています。
個人的には私自身、未だに20年前に在籍していたソフトバンク社の話を求められることが多く少し辟易しておりまして。いち早く「カバー」もしくは「ホロライブ」の知名度がそれを超えることを願いたいです(笑)
「新しい才能を会社を担える存在に育てる」成長期のカバーが目指す組織づくりと未来
ーカバーの経営支援において、特に意識されていることは何でしょうか?
ソフトバンクやファーストリテイリングなどを見ても、ベンチャー企業はどんな規模になっても成長過程においては創業社長のエネルギー値が非常に重要な要素だと感じています。そういう観点でも創業社長である谷郷さんをあらゆる角度からサポートしていくことは重要なミッションと感じています。
また、上場しているとはいえ、まだまだ成長余地のあるベンチャー企業だと思います。組織面でも整備の余地が大きいと感じているので、谷郷さんだけでなく他の役員や現場社員とも積極的にコミュニケーションをとって企業価値向上に努めたいと考えています。
人材採用も重要で、私も日頃から採用に繋がりそうな「カジュアル面談」をこなしています。上場企業としても安定性に加えて、第二創業的なカオス感もあるので、そんな環境を楽しめる方おりましたら、まずは、ぜひ私とオンライン雑談でもしましょう!(笑)

ーこれからのカバーにはどのような人材が必要だと思いますか?
私が考えるカバーの次のステップは、優秀な人材が集まる企業になることです。特に、新卒採用は強化・継続したいと感じますね。優秀な新卒人材が集まるサイバーエージェントやリクルートホールディングスはやっぱり組織的に強いなと感じています。
また、コンテンツやエンターテインメント業界は感性が重要なので、若い現場から新しいヒットコンテンツを継続的に生み出せるようになれたらいいなと思います。第二の谷郷さんが欲しい、いや、これからの会社を担っていけるような「若手谷郷」なる存在を量産したいですね(笑)。
最近は若い人による起業も増えてますが、成功確率は低く大規模な挑戦が難しいのが実情です。有意義な挑戦をしたいのであれば、カバーのように成長余地のある企業に入社することをオススメします(笑)。
ー最後に、等身大のカバーを一言で表すとしたらなんでしょうか?
浮かんだのは「新しいエンターテインメント・カルチャーを創造する企業」ですかね。
「VTuber」というコンテンツは、「デジタル」なものとリアルな「ヒト」が融合することで新しい価値が生み出され、ファン(顧客)を創出しています。AI時代が到来し、デジタルがますます加速化する一方で、我々「ヒト」の価値が再考されていくと思います。そんな時代に新しいエンターテイメントやカルチャーを創造し続けられる企業になれればと思います。