『hololive OFFICIAL CARD GAME』カバー×ブシロード プロデューサーが語る開発秘話と未来像

2024年9月の発売以降、ファン層を着実に広げている『hololive OFFICIAL CARD GAME』(以下、ホロカ)。
2025年5月14日には「Media Create TCG Award 2025」にて、「Media Create New TCG Award」を受賞※1。
年内には英語版の発売が決定しており、グローバル展開も見据えるホロカですが、一体どのような開発ストーリーを経て誕生したのでしょうか?

今回COVERedge(カバレッジ)では、本プロジェクトを統括するカバー株式会社 カード事業開発室プロデューサーの堀江礼希さんと、販売・運営協力を担う株式会社ブシロード TCG開発2部 プロデューサーの河津博志さんに話を伺い、ホロカ誕生の裏側と今後の展望に迫りました。

堀江 礼希

カバー株式会社/カード事業開発室 TCG開発部 部長兼プロデューサー

2022年カバー入社。『hololive OFFICIAL CARD GAME』のプロデューサーとして、企画・開発・販売・プロモーションまでプロジェクト全体を統括。カード事業開発室にて7名のチームを率いる。小学館集英社プロダクションでの『ポケットモンスター』※2のライセンスビジネス、楽天でのIPビジネス立ち上げを経験し、カバーではマーチャンダイジング分野における事業開発を担い、自社ぬいぐるみブランド『hololive friends with u』の立ち上げや東京キャラクターストリートへの出店などを手がける。

河津 博志

株式会社ブシロード/TCGユニット TCG開発2部 プロデューサー

2017年ブシロードに入社。『Weiβ Schwarz(ヴァイスシュヴァルツ)』チームで3年半の経験を積んだ後、『Shadowverse EVOLVE(シャドウバース エボルヴ)』の立ち上げに従事。2024年3月よりホロカ開発に参加し、立ち上げをサポート。現在は、販売・運営協力という立場で、流通・店舗連携・営業・ヒアリング・インフラ調整など主にBtoB領域を担当。

海外出張がきっかけで生まれたホロカ。ファン同士の交流が着想のカギに

ーずばり本題から入りますが、ホロカの企画はどのようにして生まれたのでしょうか?最初のアイデアから製品化までのストーリーを教えてください。

実は元々カード商品として、トレーディングカードゲーム(以下、TCG)ではなく、ARを使ったコレクションカードを考えていました。そんな中転機となったのは、2023年の夏に行ったアメリカ出張でした。現地のイベントを見学する中で、ホロライブファン同士が集まり、自然に交流が生まれている光景を目の当たりにしました。そこから「一人で楽しむARカードではなく、ホロライブのファンがコミュニティの中で楽しめる体験を提供したい」という考えにいたり、現地でタクシー移動中に「TCGをやってみない?」という話が出たのが、ホロカの始まりです。帰国した後企画を始めた頃は、私ひとりでプロジェクトを進行していましたが、TCGの制作経験はなく、ビジネスとしての知識はゼロからのスタートでした。

ー堀江さんおひとりでのスタートだったんですね!初めに何から着手されたのでしょうか?

まずは秋葉原で様々なカードゲームを買い集めて、研究するところから始めましたね。当時は商品化チームのマネジメントも並行して担当しており、立ち上げから発売まではとにかく走り続けていたという感覚で、正直記憶が残っていないほど目まぐるしい日々でした……(笑)。

2024年3月からは、河津さんと一緒に動き始めました。当時「何人でやっているんですか?」と聞かれ、「僕ひとりです」と答えたことをよく覚えています。状況を説明するたび、色んな方から「それは正気じゃない」と言われました(笑)。それでも、他部署の仲間や河津さんのような協力者の存在があったからこそ、リリースまでたどり着くことができました。また個人的には、幼い頃にカードゲームで遊んだ思い出も支えになりましたね。

ーTCG事業は製品開発にとどまらず、大会運営やコミュニティ形成など幅広い要素が求められますが、おふたりは日々どのように連携しながら進めているのでしょうか?

河津さんとは週1回の定例会議を設けているほか、日常的にも密にコミュニケーションを取り、必要に応じてサポートし合いながら、プロジェクトを前進させています。

「いいものを作る」という共通の目標に向けて、お互いのリソースや経験を惜しみなく出し合うことを大切にしていますね。これほど協力体制の整ったカードゲームプロジェクトは、業界内でもあまり例がなく、非常にやりがいのある取り組みだと感じています。

「戦わないカードゲーム」ホロライブ独自の世界観を活かした設計思想とは

ー開発の中で特に困難だった部分や、印象に残っているエピソードはありますか?

ホロライブのタレントさんは「戦う存在」ではないので、既存のTCGのようなバトルを前提としたシステムにそのまま当てはめることができません。タレントさんがどのような立ち位置でこのカードゲームに登場するか、ユーザーにどういう役割を与えるかを考えるのが難しかったですね。そんな中で「推し活」というキーワードが突破口になり、ホロライブらしいゲームの在り方が見えてきました。

ホロカでは、カードゲーム全体を「ライブのステージ」に見立て、タレントさんのカードが登場する場を「ステージ」、前方中央で活躍する位置を「センターポジション」、その後ろ側を「バックポジション」といった全員がステージで輝けるような呼称を採用しています。また従来の「墓地」にあたるゾーンの名称については、こだわり抜いたポイントの1つですね!

多くのカードゲームでは、使用済みのカードや効果によって捨てられたカードが置かれる場所を「墓地」と呼びます。これはカードの「退場」を意味する一般的な用語ですが、ホロライブの世界観においては「墓地」や「退場」といった言葉はふさわしくありません。そこでホロカでは「アーカイブ」という名称にしました。配信が終わった後も動画として残るアーカイブ配信の感覚に重ねたネーミングで、ホロライブらしい世界観とファン文化を大切にする工夫のひとつです。思いついた時は「これだ!!」という手応えがありました。

ー河津さんはホロカ以外のタイトルにも携わった経験をお持ちですが、当時ホロカのコンセプトについてどのような印象を受けましたか?

「これは新しい」と感じましたね!私がこれまで携わってきたカードゲームでは、キャラクター同士が舞台上で競い合うという世界観を軸にしています。その点で、ホロカの持つ「共創と競争」の考え方は新鮮でした。

ホロカでは、ファンが「推し」で強いデッキを組めることを重視しています。一方で、平等性を保つためのバランス調整は非常に難しい点のひとつですね…!通常のカードゲームでは、1パックに100〜200種類のカードが収録され、競技性を重視すれば強いデッキは数パターン程度に収束していくのが一般的です。ホロカでは、「このカードで推しが活躍できた」とファンが実感できるような環境を目指し、カードゲームとしてのバランスを保ちながら、ファンの推しへの思いをどうゲーム内で形にするかという点も、非常に難しく、同時にやりがいのある挑戦でした。

ーホロライブならではのカードや要素をご紹介いただきたいです!

「凸待ち(とつまち)」というカードが非常に印象深いですね!これは河津さんのアイデアがきっかけです。VTuberの配信文化には、配信者が「誰でも来ていいよ」と待機状態で配信を始め、そこに他の方が突如として参加してくる「凸待ち配信」というものがあります。この文化をホロカの世界に落とし込むにあたり、YouTubeの配信サムネイルをタレントさん自身で日常的に制作していることからも着想を得て、「カードのデザインもタレントさんに作ってもらおう」という新しい試みに繋がりました。

実際の配信では、タレントの皆さんがファンと一緒にカードのビジュアルや構成を考えていく様子をライブで公開し、そこにさらに別の方が飛び入り参加するという、まさにホロライブらしい展開となりました。ともにカードを生み出すプロセスそのものがエンタメとなり、ファンにとっては「自分もその瞬間を見届けた」という体験が、カードの価値を一層高めると思っています。

カードデザインが完成していく様子をリアルタイムで見ることができるのは、他のカードゲームにはなかなかない体験だと思いますね。配信の中で生まれたデザインが、実際のカードとして「作品」になっているのがホロカならではの魅力です。タレントさんの活動軌跡がそのままカードになって残るというのは、本当に素晴らしいことだと思います。

ホロカのカードテキストには、実際の配信で使われた言葉や、タレントの皆さんの「その人らしさ」を象徴するワードを積極的に取り入れています。単にスキル名や能力を表現するだけでなく、カードの「アーツ名」や効果説明の中にも、ファンなら気づけるネタや引用をさりげなく散りばめています。

例えば、角巻わためさんのカードにある「つのまきじゃんけん」は、実際にタレントさんの動画内で生まれたネタの一つです。カードゲームに慣れている人が「なぜこの子はじゃんけんなのか?」と調べると、YouTubeで「つのまきじゃんけん」にたどり着き、そこからわためさんの配信やキャラクターに興味を持ってもらえる。ホロライブらしさをテキストの行間にも込めることで、カードをきっかけにタレントの皆さんの個性や配信に触れてもらえる設計は、ホロカの大きな魅力の1つだと考えています。

毎日多彩な配信が行われる中、日々新しいネタや名シーンが生まれていて「これは絶対カードにしたい!」と思うことが何度もあります。ただ、実際にカード化されるまでには制作や調整の工程があり、どうしても数ヶ月のタイムラグが生じてしまうんです。今この瞬間の熱量をすぐにお届けできないもどかしさはありますが、それでも当時の熱をカードに封じ込めることができた時の喜びは大きいです。来月には新シリーズを発売しますが、これまでとは違う要素を加えており、タレントさんの個性もかなり詰め込まれていますね!

「キュリアスユニバース」ですね。ギリギリまで「どうにかもっと面白くできないか」を考え抜きました。ぜひ期待していてください!

「ファンの熱意が導いた英語版リリース」世界中のファンが共有できるエンタメ体験へ

ー年内に予定されている英語版発売について、決定した経緯や背景を教えてください。

ホロカの発売当初から「英語版を出してほしい」という要望は非常に多く寄せられていました。正直なところ、私たちとしても本当はもっと早く出したかったというのが本音です。

大会で日本在住の海外ファンに話を伺った際「海外のDiscordコミュニティで有志がカードテキストを翻訳しながらプレイしている」と聞きました。それ自体はとてもありがたく、嬉しいことではあるのですが、同時に申し訳なさもありました。
ホロライブの配信はYouTubeを通じて全世界に届けられているのに、カードゲームは日本語でしか遊べないという状況は、本来あるべき形ではないと感じたんです。そうした背景から、グローバルなファンにも正規の形で楽しんでもらえるよう、英語版の展開を決定しました。ホロカを世界中のホロライブファンが共有できるエンタメ体験にしていくための第一歩として、非常に大きな意味を持つと考えています。

TCGは現在、世界中で盛り上がりを見せており、グローバルな関心が高まっています。海外市場では日本のTCGも多言語版が展開されていますが、ホロカの英語版はとりわけ北米市場を重視していますね。国内と北米では流通構造に関して、基本的にディストリビューターから店舗へという構造は同じではあるものの、北米のディストリビューターは本人の意思でイベントを企画してくれる傾向があります。各地域で求められることが異なる点もふまえて、英語版リリースに向けては多くの店舗を回る予定です。

私も以前北米出張でカードショップを回ったのですが、TCG文化の中で「店舗」が果たす役割が非常に大きいと感じました。例えば、TCG大会で優勝したプレーヤーが獲得したトロフィーを自宅ではなく、カードショップに飾るという文化があります。「このお店のおかげで優勝できた」という感謝の気持ちと、「自分がここで結果を出した」という誇りの表現が込められています。日本ではチェーン店舗が多いのに対し、北米では個人オーナーの店舗が多く、オーナーの趣味嗜好によって店の特色が全く違います。そのため英語版の展開では特に、仲間集めやコミュニティ形成が重要になると考えています。

海外での挑戦面をあげると、新しいカードゲームは発売当初に触れてもらえることは多いものの、定着するかがポイントですね。これは日本も同様ですが、TCGはオフラインでの施策が非常に重要でいわゆるドブ板営業が一番効果的です。国内でもリリース前には私たちが店舗に出向いて遊び方教室を開催したのですが、海外でも実際に店舗へ足を運んで、オフラインイベントを開催したり、ユーザーの意見を直接聞くことが大切になってくると思います。

ホロカ大会にて対戦スタートを宣言する河津さん

オフラインを通したゲームの進化とコミュニティ形成

ーここまでのお話で、現場を知ることがホロカにとって重要だと理解しました。

これは私自身、ホロカの制作を通じて初めて深く実感したことですが、TCGは、商品を届けて終わりではなく、ユーザーとの継続的なコミュニケーションによって支えられているジャンルです。TCG業界全体に共通するこの特性は、他のエンタメとは少し違い、ユーザーと共に育てていくことが前提になっているんです。運営側としてまだまだ施策や仕組みが十分とは言えませんが、それでもファンが離れてしまわないよう、日々学び続ける姿勢を大切にしています。

実際に私も、イベントには可能な限り足を運ぶようにしていて、何度もお会いするうちに顔見知りになったユーザーの方も増えてきました。そうした積み重ねが、信頼や継続的なコミュニティ形成につながっていくと信じていますね。

ホロカ大会にて対戦を見守る堀江さん

現在ホロカには、TCGとして好きな人、ホロライブだから好きな人、遊ばなくてもグッズとして集めている人など、様々な方がいらっしゃいます。各ニーズに合うものを提供できるように、現在あるイベントや施策はこれから細分化していく予定です。

例えば、イベントでは対戦以外の遊び方を提供したり、カードとは直接関係ないコンテンツを用意したりと、多様な楽しみ方ができる空間を作りたいと考えています。プレイヤー同士はもちろん、店舗スタッフ、運営チームが一体となって良い環境を作り上げることで、「またホロカのイベントで会おう!」「次はホロライブのイベントで!」といった声が自然と生まれる場を作っていきたいですね。また、カードショップの店員さんの中でもホロライブファンの方は多く、店舗スタッフだけのイベントや、企業対抗戦なども企画していきたいと堀江さんと話しています。

公式の施策だけでなく、ユーザーの方々が自主的に企画・開催するイベントや交流をサポートできる仕組みも、今後さらに整備していきたいですね。「この店舗に行けば、ホロライブファンが必ず集まっている」という安心感のある場所が、各地に生まれていくことが理想です。こうした取り組みは、日本国内だけでなく海外でも重要な意味を持つと考えています。

「繋がりを生むカルチャーの核へ」ホロカが目指す未来像

ー今後のホロカの展開について、中長期的にどのようなビジョンをお持ちですか?特に力を入れていきたい領域や企画はありますか?

英語版のリリース後、世界中のホロライブファンが同じルールのもとで遊べるイベントを作りたいと考えています。ライブなどのイベントは年に数回ですが、カードゲームがあれば日常的に集まれます。ホロカは言語が違っても同じルールで遊べるのが強みです。
また、VTuberならではのTCGとして多くの可能性があると思うので、業界の慣習に従いながらも、一部では新しい試みに挑戦し、ホロカ独自の文化を作っていきたいですね。

ブシロードでは、関わっているIPに還元できることも目標にしています。ホロカを通して、ホロライブのファンの方に喜んでいただけるような価値を提供したいですね。
また、最近はユーザー層の広がりによって、TCGが「子どもが遊ぶもの」というイメージはすっかり薄れてきました。今では年齢関係なく、小学生と大人が同じルールのもと対等に楽しまれていて、TCGは世代や背景を越えて人と人をつなぐ共通言語になりつつあると感じています。今後もイベントなどを通じてファン同士を繋ぎ、ホロカコミュニティが広がる施策を実施できればと思います。

ー最後に、改めて「ホロカとは何か?」を一言で表すとしたら、どのように定義されますか?

「ホロカで繋がるみんながそこにいる」という言葉で表現したいです。ここで言う「みんな」とは、ホロライブのタレントさんはもちろん、一遊んでくださるユーザーの皆さん、カードを取り扱ってくださる店舗、カードイラストを描いてくれるクリエイターの方々、そして遠くから参加してくれる海外のファンなど、本当に多様な人々を指しています。
ホロカは、そうした人々がひとつの共通言語として繋がれる場であり、決して閉ざしてはならない大切なものだと感じています。単なるカードゲームにとどまらず、出会いや交流、そして“推し”を通じた感情の共有まで含めた、ひとつのカルチャーの核になってほしいと思っています。

 一言でいうと、ホロカは「面白い、楽しいの中心」だと思っています。ホロカにはカバーさんとブシロードだけでなく、さまざまな会社や人たちが関わっており、皆で一緒に盛り上げていこうという空気があります。会議の場でも、皆さん本当に楽しそうに話していて、それがすごく印象的です。ものづくりにおいて一番大事なのは、「自分たちが心から面白いと思えているかどうか」だと思います。それがブレてしまうと、ユーザーにもその楽しさは伝わらない。ホロカは、私自身も本気で遊んで楽しいと思えるゲームであり、だからこそユーザーにも自然とその熱が届いているのだと感じています。

※1:「Media Create TCG Award」は、トレーディングカードゲームの発展を讃えるアワードとして創設されました。またこの度受賞した「Media Create New TCG Award 2025」は、2024年度において最も販売数の多かった新規TCGシリーズが受賞する賞となっています。
※2:ポケットモンスター・ポケモン・Pokémonは任天堂・クリーチャーズ・ゲームフリークの登録商標です。

カバレッジでは、2025年1月に開催されたホロカ大会のレポートも掲載しています。あわせてご覧ください。

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