これからのカバーを担う新卒社員向け研修の中身とは?

「つくろう。世界が愛するカルチャーを。」をミッションに掲げるカバーでは、エンターテインメントの新時代を切り拓くため、2022年度入社から新卒社員の採用を始め、育成に力を注いでいます。

その新卒社員の最初の業務であり、今後の業務の根幹を作るものが、「新卒研修」です。カバーの社員として必要なスキル、事業を牽引するマインド、そして個人の市場価値を高める視点まで、成長に欠かせない要素が研修に詰まっています。

2025年に新たな仲間となった13名には、どのような新卒研修が行われたのでしょうか。研修のキーパーソンである人事本部 人事部 人事企画チームの速水(はやみず) 昌憲さんにその全貌と込めた想いを伺いました。

新卒研修は会社全体の重要な取り組み

カバーの新卒研修は、人事企画がコンセプト・枠組みの設計と運営を担当しています。

各部署の中核を担う社員や、谷郷CEOをはじめとする執行役員、本部長といった多岐にわたる部門の協力があって初めて、この研修は成り立っています。

新卒研修は、部署や役職問わず大きな力を注いでいる、会社全体にとっても重要な取り組みなのです。

カバーの新人研修について

新人研修で習得を目指すビジネススキルは大きく2つの領域で構成されています。一つは「職種を問わず社会人として必要となる能力」、もう一つは「職種によって必要となるスキル(テクニカルスキル)」です。

入社後の新卒研修では、入社日である4月1日から6日間にわたって「職種を問わず社会人として必要となる能力」の習得を目的として集中的に行なっています。

今年度は4月1日から週末を含む8日までが新卒研修期間となり、その後も入社2年目まで、2か月に1回のペースでロジカルシンキング習得の研修を継続的に行う予定です。

4月に行われる6日間の研修内容

・マインドチェンジ研修

学生から社会人になるにあたっての心構えを養う研修です。学生時代の価値観や考え方をアップデートすることが目的です。

・会社理解研修

最も重要とされる研修で、「組織理解」「事業理解」「商流理解」の3つの軸で構成されています。※具体的な内容は後述の速水さんインタビュー内でご説明します。

・オリエンテーション

事務手続きをはじめとする社内ルールや進め方など、バックオフィス部門の担当者が、仕事をする上で留意すべきルールや制度について説明します。これも会社理解の一部と言えます。

こうした大枠に「能力開発」として、職種を問わず必要なビジネススキルを習得する能力開発の研修が組み込まれています。これはさらに以下の2つに分けられます。

・ビジネスマナー

電話応対の仕方、メールの書き方、席次など、いわゆるビジネスマナーを学びます。

近年はこれらの機会が少なくなっているものの、いつどこで必要になるかわかりません。社会人として知っておくべき知識をインプットすることで、新卒社員がどんな場面でも自信を持って振る舞えるようにサポートしています。

・基礎的な考え方

報・連・相やPDCAサイクルなど、組織で仕事を進める上で必要となる基礎的な考え方を学びます。座学を中心とし、仕事で成果を出すための思考のフレームワークを構築することが目的です。

まずは「どんな職種であろうと必要な能力」を大切に

―今回は新入社員の方が入社してからのオンボーディングに関わる速水さんにお話を伺っていきます。早速ですが、速水さんが担当されている業務からお聞かせください。

人事企画は、人事に関するさまざまな企画運営を行うチームです。具体的には人事評価の設計や入社した方へのオンボーディング、社員満足度調査などの業務に加え、社員総会など会社イベントなどを担っています。

私は人事企画において、主に教育研修施策の企画設計・実行に携わっており、新卒研修も担当しています。皆さんが新卒で入社してから約2〜3年のスパンを意識して育成プランを考えています。

―一言に研修といっても幅広く担当なさっているのですね。

そうですね。各部署の育成方針に合わせたオーダー研修の企画や、既存社員向けのさまざまなビジネス研修にも対応しています。最初は配信/コンテンツ事業からスタートしたカバーも、現在は事業範囲が拡大し、幅広い業界の方々と関わるようになりました。そうなると求められるスキルも変わってくるので、事業成長に合わせて必要とされるスキルの研修を展開したりしています。

―早速本題に入りますが、2025年入社の新卒社員の方々の雰囲気はいかがですか?

今年度の新卒は13名で、男女比は半々でした。職種構成も、クリエイター/エンジニア職とビジネス職で半々ですので、全体的にバランスの良い年代だと思います。

特筆すべきは、皆さんとても明るくて仲が良く、積極性があることです。研修の時も、皆さん真っ先に手を挙げたり、自分の意見をしっかり発表しながら和気あいあいと研修に参加していましたね。

―4月に行われる新卒研修では、社会人として仕事をしていくうえで必須の基礎スキルを徹底的に学ぶのですね。

はい。ベーシックなビジネスマナーは、現代では不要だったり学ぶ機会がないことも多いと思います。他にも、最近の学生さんだと、ほぼスマホで完結して、パソコンも使う機会が少なかったり、メールをあまり使わなかったりすることもあるでしょう。

ですが、やはりビジネスの現場ではパソコンを使えないと仕事にならないこともありますし、いざとなったらメールできちんとコミュニケーションが取れるということは、よりレベルアップするために大事なことだと思います。個人的な見解ですが、将来のために、新卒のうちに基本的なスキルをしっかり身に付けておいてほしいと思っています。

そして、それに限らず、「新卒入社の方の市場価値を上げること」を意識して研修を組んでいます。

ステークホルダーは誰なのか?を考える心構えを促進

―カバーならではの特色ある研修プログラムはありますか?

今年の研修では、先ほどお話した「会社理解」の研修に力を入れました。カバーの事業が大きくなり複雑化するなかで、「誰が私たちのお客様なのか」「一方で、私たちは何に対してお金を払っているのか」「事業ごとのステークホルダーは誰なのか」をしっかり理解して欲しいと考えたからです。

カバーは「配信/コンテンツ」「ライブ/イベント」「マーチャンダイジング」「ライセンス/タイアップ」という主に4つのビジネスモデルがあります。今回はそれぞれのビジネスについてをしっかり理解してもらうために、各ビジネスを横断的に理解している経営企画室に協力していただきました。さらに、「そもそもVTuberとはどのようなビジネスで成り立っていて、何を目指しているのか」という原点を理解してもらうために、プロダクション事業の責任者にも協力していただき、内容を練り上げていきました。

また、組織理解を促進するために執行役員全員からそれぞれの管掌範囲について組織の形や存在意義についても説明していただきました。

―人事企画が一方的に研修内容を制作するのではなく、各事業部や関係部署と話し合って研修に落とし込んでいったのですね。

はい、まさにそのように研修を組んでいきました。なかでも注力したのは「事業理解」です。これは「事業理解トークセッション」と題して、2024年に実施されたプロジェクトについて先輩社員が話すというものです。「プロジェクトを通じてカバーの社員にどういう力を付けてほしいか」「どんな考え方で仕事に取り組んでほしいか」を理解してもらうことを目的としています。そのため、単にプロジェクトを紹介するのではなく「その仕事を進めるうえでどのように関係者とコミュニケーションをしていったのか」「成功に導くためのポイントは何だったのか」を当事者から話してもらいました。

たとえばライブ配信を行っているクリエイティブ制作本部からは、YouTubeのライブ配信の舞台裏についてレクチャーがありました。ホロライブプロダクションでは、生誕ライブや同期生ライブなど年間約100本のYouTubeライブを配信しています。当初、私たち人事企画では「より良い配信を届ける技術開発」というテーマを考えていたのですが、制作本部の方から「最初に理解して欲しいことは、私たちのチームが最も大切にしているライブ配信のプロセスです」とフィードバックがありました。私たちが手がけるライブ配信はどのようなプロセスで制作されて、どのような工程があり、どんな部署が関わっているのか。これらを研修に落とし込んでもらいました。

「獅白杯(ししろはい)」プロジェクトに関する研修もありました。「獅白杯」は、ホロライブプロダクション所属タレントの獅白ぼたんさんが主催する格闘ゲームのトーナメント大会なのですが、これはもともとカバーの営業担当者が、ぼたんさんが「自分主催のイベントをやりたい」という話を聞いたことで動き出した案件なのです。

ただ、営業のミッションは数字を上げることです。そこでその営業担当者は「獅白杯を開催するにはどうすればいいか」を考え、上司を始めとする各所と合意を取りつつ、障壁を一つひとつ解消していきました。タレントさんがやりたいことを実現するためにどうすればいいかを考えながら、部署としてのプロジェクトを組み立てていく。新卒の方にも、こういう考え方を身に付けていただければと思っています。

参考記事:獅白ぼたん・「獅白杯」担当者インタビュー — 獅白杯にかける思いと共創の裏側

―なかなか興味深い内容の研修ですね。

そうですね。ほかにも、再生回数1億回以上を達成した星街すいせいさんの『ビビデバ』で、バズを盛り上げるための仕掛けづくりの話もありました。研修の企画に当たっては、私自身も事業部の方から話を聞いてワクワクしたほどです。
自分が楽しくない内容の研修は作りたくなかったので、そこは意識しましたね。

大前提となる「VTuber事業の本質」とは

―研修内容を設計するうえで、「楽しさ」のほかにどのようなことを重視しましたか。

新卒研修として今の形になったのは2024年からでした。その時は、どのような内容にするかを経営層と議論し、「新卒社員から将来のマネージャー層を出していきたい」という目標を掲げました。そこで10年20年先の未来を見て、2年目・3年目に身に付けるべきスキルや知見を設計し、そこから逆算して「新卒時代にやっておきべきこと」を研修内容に落とし込んでいきました。

カバーでは2年目3年目の社員になると、プロジェクトのオーナーになって自分でプロジェクトを回していく人材になることが求められます。それも既存のプロジェクトを引き継いで回すのではなく、自分で新しい企画を立てて実行していくまでの力をつけなくてはいけません。これがなかなか難しいのです。

たとえばプロジェクトを始めるに当たって立てたスケジュールも、アンコントローラブルな不確定要素が原因で崩れていくことがあります。最初の要件定義で「これをやるのであれば、事前に何が必要か」と分解して要素を書き出し、リスクを明らかにすることは絶対に必要ですし、他部署の協力を仰ぐ時には「いつまでに何をどこまでやってもらうか」をきちんと伝えなくてはなりません。

このように紐解いていくと、2年目でプロジェクトマネジメントを回すためには、1年目で要件定義に必要となる思考のフレームワークを身に付ける必要があります。そこで1年目は論理的思考力のインプットをメインにし、2年目に「プロジェクトマネジメント研修」で、プロジェクトを完遂する力を身に付けるというように設計しています。

―将来を見越して研修内容を設計されているんですね。昨年と比べて今年の新卒研修で進化した点はありますか?

昨年は5日間でしたが、今年は6日間になり、初めて取り入れたのが「会社理解」の研修でした。

おそらく多くの企業では、新卒研修の時に会社のビジネスを理解するためのプログラムが組まれていると思います。ところがカバーにはその内容がなかったし、私も当初はそれが必須だとは考えていませんでした。しかし2025年度の新卒研修を作るに当たり、カバーの事業やビジネスモデルをしっかり理解することが必要だと考えたのです。理由は、カバーの事業の本質を理解しないと、様々な勘違いが発生したり信頼関係が崩れたりするリスクがあるからです。

例えば、VTuberであるタレントさんにはそれぞれの個性やクリエイティビティがあります。それをキャラクターIPと同じように捉え、社員が「自分のやりたい企画をタレントさんを使って実行する」という勘違いをしてしまうと、タレントさんとの信頼関係はもちろん、タレントさんを応援しているファンとの信頼関係も崩れてしまいます。

私たちがやるべきことは、個性やクリエイティビティを持っているタレントさんがやりたいことを、カバー社員がプロフェッショナルの技術を使って、より良いものにしてファンに届けること。これはカバー社員のスタンダードとして備えるべきマインドです。新卒研修は社員としてのスタンダードを作るものなので、「カバーの人材が持つべきマインドはこれだ」というものをきちんと用意することが必要だと考えました。そこで展開したのが、前述の会社理解の研修だったのです。

そして今回の新卒研修で伝えた「カバーのスタンダード」を、既存の社員にも展開しようという試みも進めています。

―新卒研修を起点に、既存社員向けの研修も展開されているのですね。

新卒を採用して育てていくことは、会社の文化を作っていくということだと考えています。新卒の採用と育成を繰り返すなかで、「自分たちを育ててくれたこの基本を次の世代にも伝えていこう」というサイクルが生まれ、カルチャーが育まれていきます。

谷郷CEOは「2030年にはVTuberを世界の当たり前にする」という目標を掲げていますが、そのような未来を実現するためにも、カバーが大事にしている価値観や文化を形成していくことが大切になると考えています。

―新人さんの研修の成果はいかがですか?

研修後にアンケートを取っているのですが、ポジティブな意見が多いです。一度断られた提案内容について、具体的にどこが悪くて何を改善すればいいのか相談するために、ロジックツリーで企画内容を要素分解し、より建設的なフィードバックを得たというコメントもありました。

マネージャー層からも「ビジネスマナーもしっかりできている」との声があり、当人からも「研修を思い出しながら対応しました!」と嬉しそうな報告がありました。いい影響が出ていると思います。

―今後、どのような研修を実施していきたいとお考えですか。構想があればお聞かせください。

二つあります。一つは、いまお話しした会社の基礎となる土台を研修で作っていきたいということです。

もう一つは能力開発の充実です。カバーでは、学ぶ意思のある社員に対して補助支援する制度があるのですが、その制度の認知度を上げ、能力向上のモチベーション足心につなげたいです。

新卒研修に関しては、将来的には合同でプロジェクトを作っていくようなプログラムも入れていきたいと考えています。現在はまだ難しいのですが、体験を通した学びを充実していくことが一つの目標です。そして新卒の研修内容を既存社員にもデリバリーして会社のスタンダードを固めていきたいですね。

カバーとは「タレントさんの個性」と「社員のプロフェッショナル」の融合体

―速水さんにとってカバーとはどんな存在なのか一言お願いします!

うーん、表現が難しいのですが、私にとってカバーは「タレントさんのクリエイティブや個性と、プロフェッショナルの融合」だと思っています。実はこの言葉は、VTuberビジネスの書籍を描かれている中山 淳雄さんの言葉※を借りたものなのですが。

私は中途入社のオンボーディングの時に「タレントさんの持っている個性やクリエイティビティと、カバーの社員が持っているプロフェッショナル性やさまざまな関係者の力が合わさって、素晴らしい感動体験をファンの皆様に届けることができるのです」と伝えているんです。カバーの社員はプロフェッショナルであり続けることが大切だと、私はそう考えています。

―最後に、就活中、もしくは、これから就活する学生へメッセージをお願いします。

就活中の方や学生の方は、「未知のものに興味関心を持って取り組むこと」を大事にしてください。VTuberやエンタメやアニメのことを何も知らずに来る方もいますが、いいコンテンツをチームで作っていくには、コンテンツを知る努力が必要です。

どんな業界も同じですが、好き嫌いをせずにいろいろなことに興味関心を持って学んでいく、自分のなかに取り込んでいくことは、社会で活躍するために必要な素質です。ぜひいろいろなことに関心を持って日々活動してほしいと思います。

―新卒一人ひとりを大切に育て、会社全体で成長を支える。新卒研修は人事企画が中心となりつつも、全社が一体となり、力を注いでいます。この取り組みこそが、これからのカバーの未来を導く推進力となるのではないでしょうか。

※出典:中山 淳雄, 『クリエイターワンダーランド 不思議の国のエンタメ革命とZ世代のダイナミックアイデンティティ』, 日経BP, 2024年02月26日, p. 211.

  • トップ
  • 採用
  • これからのカバーを担う新卒社員向け研修の中身とは?

関連する記事

採用の新着記事