タレントの「やりたいこと」を掘り下げる。ホロライブのイラストができるまで

ホロライブプロダクションが日々届けるクリエイティブの裏側では、イラスト制作部がそのビジュアルのクオリティを支えています。新衣装のデザインからイベントのキービジュアル、グッズのイラストまで、幅広く手掛けるこの部署は、COVERedgeでは今回、イラスト制作部の部長・Mさん、アートディレクションチームのHさん、内製イラストチームSさんの3名に、制作の現場とチームの在り方を聞きました。

コンセプト選定から実制作まで、一気通貫で挑む組織づくり

―イラスト制作部は、どのような役割を担う部署なのでしょうか。チーム構成なども教えてください。

イラスト制作部は社内のイラストのクオリティを担保する部署として、「アートディレクションチーム」「内製イラストチーム」「進行管理チーム」の3つで構成されています。アートディレクションチームは外部の制作会社や他部署との橋渡しや、イラストの監修がメインの仕事で、内製イラストチームは描画を中心に行います。進行管理チームは案件のスケジュールを一元管理する専門チームで、アートディレクションチームと内製イラストチームがスムーズに動けるようにプロジェクトマネジメントを行っています。

ホロライブはタレントの数がとても多いので、制作するイラストの枚数も膨大になります。全体のクオリティラインを保つために、外部の制作会社への発注を統制・監修する機能と、社内で実際に絵を描く機能の両方を持っているのがイラスト制作部の特徴です。部署全体では現在25名前後のメンバーが在籍しています。

―具体的にどのようなイラストを制作しているのでしょうか?

イベントのキービジュアル、大型案件の共通衣装やポップアップショップのグッズイラスト、タレントの新衣装デザインなど、自社が主管するプロジェクトに関わるイラストのほぼすべてに関わっています。同時に動いている案件の種類も多く、アートディレクションチームだけでも年間で1,000件近い案件を動かしています。

―幅広い制作を行うイラスト制作部ですが、アートディレクションチーム・内製イラストチーム、それぞれの1日の業務内容を伺いたいです。

アートディレクションチームでは、出勤後まず、抱えているタスクの優先順位を確認し、チーム内で今日の動きを共有することから始まります。そこからは、外部の制作会社さんや社内の各部署、そしてタレント本人とのやり取りが業務の中心になりますね。新衣装の制作などでラフを起こすなど手を動かす場面もありますが、基本的にはディレクターとしての役割が大きいです。

内製イラストチームは、1日の大半を描画タスクに充てています。現在7名のメンバーで月に約30件、1人あたり常時3〜5件の案件を並行して進めています。
依頼内容は多岐にわたりますが、中にはタレントさんから「この人に描いてほしい」と直接指名をいただいて担当することもあります。タレントさん主導のプレミアムグッズ制作などでは、クリエイター同士の信頼関係から仕事が始まることもあり、それが内製チームの大きなモチベーションになっています。

―役割が明確に分かれている中で、チーム間の連携で意識されていることはありますか?

スケジュール面では進行管理チームと常に連携をとっていますが、同じ案件でタッグを組むこともあれば、それぞれが独立して動くこともあります。特にこだわっているのが、クオリティの監修体制です。通常、外部の制作会社さんにお願いする案件はアートディレクションチームが監修を担いますが、内製チームが描くイラストに関しては、内製チーム内のシニアメンバーが監修を行う体制をとっています。 同じチームのクリエイター同士だからこそ、細かなニュアンスを拾い上げ、クリエイティブの純度を保てるようにしています。

―社内での制作と外部の制作会社への依頼はどのように使い分けているのでしょうか。

外部の制作会社さんは、多様な作風に対応できるクリエイター層の厚さと実行力を持っていて、カバーの案件を支えてくださる欠かせない存在です。一方で、社内のアートチームを持つ強みは、その場ですり合わせながら共創できる距離の近さとスピード感にあります。例えばEXPOやライブといった大型施策では、企画の初期コンセプト選定段階からイラスト制作部が入るようにしています。組織として一貫した世界観を追求でき、より挑戦的な企画にも踏み込んでいけるというメリットがあります。

社内にアートディレクターやイラストレーターがいることで、アイデアをその場ですぐにラフにして「この方向性でファンの方に喜んでもらえるか」を即座に検討できるのは大きいですね。社内で密にプロトタイプを練り上げることで、外部の方へ依頼する際にも、より解像度の高いディレクションができるようになります。結果として、プロジェクト全体の精度とスピード感を高めることにつながっています。

EXPOの描き下ろしから新衣装の監修まで。「あのチームに任せれば安心」と思われる存在を目指して

―「hololive SUPER EXPO 2026」のキービジュアルは、イラスト制作部が衣装デザインから描き下ろしたそうですね。どのように進めていったのでしょうか?

今回のEXPOのメインテーマである”hololive time-warp”というコンセプトに合わせて、衣装デザインからアートディレクションまでを部内で担当しました。背景を含む作画工程は外部のパートナー様にお願いし、衣装デザインと監修を内製で担うという役割分担で進めています。まず私が衣装デザインのベースを作り、アートディレクションチームの各メンバーに担当を割り振り、私が全体を総監修するという体制で行いました。初期段階からイベント運営チームに「Y3K(近未来感)の要素を入れよう」「素材にはツルツルした質感をアクセントに」といった要望をもらい、それらをデザインに反映させていきました。

―衣装デザインで特にこだわった点を教えてください。

ホロライブらしい「かわいらしさ」を土台にしつつ、コンセプトである「かっこよさ」をどう共存させるか、そのバランスには一番神経を使いましたね。また、多くのタレントが着用し、多方面で展開される衣装なので、細部を凝りすぎず量産時にも映える機能的なデザインにすることも、アートディレクションチームとして大事にしました。

私自身、近未来的なデザインは未知の領域だったのですが、部長のMからアドバイスをもらいながら進めることで、チームとしての知見も深まりました。そうした知見の共有がすぐ隣で行えるのも、内製チームならではの良さだと感じます。

―実際の作画プロセスでは、外部の制作会社とどのように連携されたのですか。

背景を含む一部の作画は、外部の制作会社さんにお願いしました。全タレントのポーズ案を3パターン出していただいて、他部署とも連携しながら細部まで監修を重ねていきました。非常に高いクオリティで形にできたのは、外部の制作会社さんあってこそだと思っています。結果としてタレントさんからもファンの方々からも嬉しい反響をいただくことができて、チームにとっても大きな手応えになったプロジェクトでした。

―タレントのイラストを制作する上で、最も大切にしていることは何でしょうか?

内製イラストチームの場合、タレント本人と直接やり取りをする機会は多くありません。だからこそ、日々の配信や3Dライブ、オリジナル楽曲といった活動を深く追い、その方の世界観を徹底的に理解することを大切にしています。
業務中も配信をBGMにしているメンバーも多く、特に周年ライブや楽曲制作などはご本人の「やりたいこと」が色濃く反映されるため、重要な資料になります。例えば、依頼書に「かわいい衣装」と一言あっても、その方にとっての「かわいい」が甘めなのか、スタイリッシュなのか、あるいはネタに振り切ったものなのか、文面の裏にあるその人らしさを、日々の活動の積み重ねから読み取っていくのが私たちの役割です。

―そうしたタレント一人ひとりへの想いや姿勢がタレントから指名を受けることに繋がるのですね。

そうですね。長く担当させていただいているタレントさんだと、「公式モデルは大人っぽいけれど、実はアニメ調のキュートな絵柄が好み」といった、表に出ているイメージの先にあるこだわりを意識して描くこともあります。基本的には他部署を介してのやり取りですが、完成したイラストに対してすごく喜んでいたとフィードバックをいただけると、解釈が間違っていなかったんだと大きな手応えを感じます。

―一方で、アートディレクションチームはタレントと直接コミュニケーションを取りながら進めると伺いました。

新衣装の制作などでは、タレントさんとMTGを行ったり、細かい部分はチャットなどで直接すり合わせながら進行します。複数のデザイン案を提示して選んでもらったり、ときには「この要素とこの要素を組み合わせたい」といったリクエストをその場で反映したりしながら、二人三脚でゴールを目指します。
やり取りを重ねるうちに、言語化されていない潜在的な好みが見えてくることもあります。そうして何パターンも提案し続ける中で、「この方ならきっとこれを選ぶだろうな」という感覚がチームの中に蓄積されていきます。

一度制作で信頼をいただけると、「次もこのチームにお願いしたい」と、衣装以外のクリエイティブについても相談をいただけるようになることもあります。それが何より嬉しいですね。タレントさんが日々新しい挑戦を続けていく中で、迷ったときに「あのチームに任せれば安心だ」と思ってもらえるクリエイティブパートナーであり続けることが、私たちの目指す姿です。

―チーム内でのコミュニケーションやノウハウの共有はどのように行われていますか?

アートディレクションチームでは、毎週の定例ミーティングを進捗共有だけでなく、制作上の懸念点や判断に迷ったら小さいことでも相談し合える場にしています。どんな些細な違和感でもすぐに口に出せる風通しの良いチームとなることをメンバー全体で意識しています。

相談のしやすさの土台には、メンバー同士の仲の良さもあると感じます。プライベートで映画や旅行に行ったり、誰かが趣味で参加しているイベントにみんなで遊びに行ったりと仕事外での信頼関係があるからこそ、業務でも遠慮のない意見交換ができています。チームワークの良さは、私たちの大きな強みですね。

内製チームは週に一度の成果物共有会を実施しています。完成品だけでなく、制作途中のスクリーンショットを見せ合いながら工夫した点などを発表するのですが、最近は業務の枠を超えて、外部のレッスンで学んだ知見や3Dを活用した最新の描画技法を自主的にレクチャーしてくれるメンバーも増えました。みんなが「チームのスキルを底上げしよう」と、自発的に動いてくれるいいサイクルができています。案件の中には1人が描いたラフに対して、ほかのメンバーが線画や着彩をサポートする形で1枚を仕上げることがあります。内製チームでは各メンバーの作家性を大切にしているので、サポートに入る側もメイン担当の絵柄に合わせることが求められますが、日頃から技術を共有し合っているからこそ、自然にできることかなと思っています。

「ホロライブが好き」制作を支える原動力と、カバーが掲げる「挑戦」の姿勢

―皆さんが多忙な業務の中でも、妥協なくクリエイティブに向き合い続けられる「原動力」は何でしょうか。

やはりファンの皆さんの反応ですね。自分が描いたイラストが公開されたとき、SNSなどで「この絵、すごく好き!」「実在感がすごい」といったコメントをいただくと、それまでの苦労がすべて報われます。タレントさんの魅力を最大化できたと感じる瞬間が、何よりの喜びですね。

タレントさんのこだわりを直接聞き、それを最高の形で世に出すためのサポートができる環境そのものが原動力ですね。想像以上のクオリティに到達できたときの達成感は、この仕事ならではのものだと思っています。

部長の立場としては、チームのメンバーが楽しそうに、かつストイックにイラストを描いている姿を見ることが一番のエネルギーになります。「ホロライブが好き」「もっとクオリティを高めたい」という気持ちを持つ仲間が集まっているからこそ、チームとして成長し続けられると思っています。

―採用や育成において、大切にしていることを教えてください。

新卒採用では画力はもちろんですが、VTuberコンテンツへの理解度や、プロのイラストレーターとしてのマインドセットも重視しています。「カバーにはイラストを描く専門部署がある」ということは、あまり知られておらず、驚かれることも多いのですが、カバーがクリエイターとして研鑽を積める環境であることを知っていただけたら嬉しいです。

最近は新卒メンバーをはじめ、高い画力を持つ方々がどんどん加わってくれています。イラスト制作部のメンバーの中にはIT業界から独学でスキルを磨いて入社し、今やエースとして活躍しているメンバーもいます。「好き」という熱量とスキルがあれば、誰もが輝ける場所です。

―今後、個人やチームとしてどのような展望を持っていますか。

内製チームとしては、制作の企画段階からより多くの部署と深く関わっていきたいと考えています。イラストの知見を活かした提案を早い段階で行うことで、カバーが生み出すクリエイティブ全体の質を底上げしていきたいです。

外部パートナーさんやタレントさんとの複雑な連携など、より難易度の高い調整業務を引き受けていきたいと思っています。EXPOキービジュアルの総監修で得た手応えを糧に、今後も大規模なプロジェクトに挑戦し続けたいです。

カバーのバリューである「果敢に仕掛ける」を常に意識しています。VTuberというビジネス自体がそもそもチャレンジングですし、エンターテインメントが生き残っていくには、挑戦し続けることが不可欠だと思っています。今のカバーはまさに、その踏ん張りどきにいると感じていますし、チームとしても新しいことに挑み続けていきたいです。

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