「宇宙探査」とVTuberはなぜ結びついた? JAXA研究者が語る、水星磁気圏探査機「みお」が繋いだホロライブとの意外な交流

VTuberと公的機関のコラボレーションが広がる昨今。ひときわユニークな展開をしているのが、JAXA相模原キャンパスとホロライブプロダクションによる取り組みです。ホロライブ所属タレント「星街すいせい」を起用した「“すいせい”に親しむコラボキャンペーン」(2024年)以降、ゆるやかに取り組みを続ける両者。宇宙開発とホロライブには、一体どんな親和性があるのでしょうか?
COVERedgeでは、JAXA宇宙科学研究所の村上豪先生にインタビュー。コラボの経緯から、宇宙科学のアウトリーチにVTuberがもたらす可能性まで、詳しく伺いました。

近年、VTuberと自治体・研究機関などの公的機関とのコラボレーションが広がりを見せています。地域の魅力発信を目的とした自治体公認VTuberの起用や、研究機関とのコラボ企画など、これまでリーチしにくかった層に届ける手段として注目を集めています。

ホロライブプロダクションでもさまざまな自治体や公的機関とコラボレーションしてきました。
その中でも特にユニークな取り組み先が、JAXA(宇宙航空研究開発機構)。名前の通り、宇宙航空分野の基礎研究から開発・利用に至るまで一貫して行う機関です。研究や開発だけに専念している機関に感じられるJAXAですが、実は、宇宙科学や有人宇宙活動の成果を一般層や次世代に分かりやすく伝えるアウトリーチ(広報・普及)活動も、とても大事な使命です。

JAXAとホロライブのコラボレーションの始まりは、2024年10月の「”すいせい”に親しむコラボキャンペーン」。

ホロライブタレントである「星街すいせい」さんの名前と、JAXAが取り組んでいる「水星探査」というテーマが重なったことから、水星探査の中心であるJAXA相模原キャンパス、所在地である相模原市、星街すいせいさんの3者がコラボレーションするキャンペーンとして実現。コラボ配信やプレゼントキャンペーンのほか、JAXAチームと相模原市長・副市長による「ビビデバ」踊ってみたショート動画が公開され、大きな反響を呼びました。

約1年後の2025年10月には、JAXA相模原キャンパスの研究者たちが企画・制作した「ビビデバ」パロディMVのフルバージョンが公開され、SNSで大きな反響を呼び、50万再生を突破しました。

星街すいせいさんコラボ以降も、カバー・ホロライブプロダクションとの交流を続けている、JAXA相模原キャンパス。先月には、タレント「角巻わため」さんのYouTubeチャンネルにて、相模原キャンパスを訪れてのロケ取材の様子が公開されました。

【動画URLを紹介】https://youtu.be/LbwgmGzzLJU?si=wa1Zjjg8x9JtwRaY

カバレッジでは、本コラボレーションの中心を担ってきた、JAXA宇宙科学研究所の村上豪先生に取材。ホロライブとのコラボレーションが生まれた経緯や、「ビビデバ」パロディMV制作の舞台裏、そして宇宙科学とVTuber文化が交わることで生まれる新たな可能性について伺いました。

届かなかった層へ、温度を届ける。「JAXA相模原」が挑む、研究の裏側にある「人」の発信

―相模原キャンパスは、JAXAの中でどのような位置づけになるのでしょうか?また、村上先生が現在携わっているプロジェクトについて教えてください。

JAXAには茨城の筑波や鹿児島の種子島、東京近郊の調布など、大きな拠点がいくつかあります。その中で相模原キャンパスには宇宙科学研究所(ISAS)があり、宇宙科学の研究を進めるとともに、惑星探査機や宇宙望遠鏡の開発や、それらを用いた宇宙科学ミッションを主に担っています。

今メインで担当しているのは、JAXAと欧州宇宙機関(ESA)の共同プロジェクトである国際水星探査計画「ベピコロンボ」です。8年前の2018年に打ち上げたベピコロンボは、JAXAの水星磁気圏探査機「みお」を、水星へ運んでおり、今年11月には、いよいよ水星の周回軌道に投入される予定です。

ベビコロンボのロゴのついたプロジェクトメンバー用ジャケット

―JAXA 相模原キャンパスでは、特別公開のオンライン配信や有志による動画制作も行われています。こうした活動は、どのような体制で進めているのでしょうか。

現在は「Sagamihara Campus Creative Outreach Team」、通称「 SCCOT(スコット)」という有志チームが、広報担当などと連携しながら、主にオンライン特別公開や動画企画に取り組んでいます。コアメンバーは20〜30人ほどで、それぞれ部署の業務もあるため、スケジュールは各自の裁量に任せながら、無理のない範囲で分担しています。

チームの軸となる活動は、例年秋に開催される「JAXA相模原キャンパス 特別公開」です。以前は2日間現地で開催していましたが、コロナ禍で一度オンライン配信を経験し、現地に行きたくても行けない方にも情報を届けられるという強みを実感しました。現地開催が復活した後も、このオンラインの強みを残そうと継続を決め、現在は1日目を現地、2日目をオンライン開催とするハイブリッド形式をとっています。オンライン配信の企画と運営は、私たちスコットのメンバーが実行委員となって行っています。

―こうしたチームはどのような経緯で立ち上がったのでしょうか。

コロナ禍当時、新しく入ってきた学生や職員が他の人と会う機会が全くなく、部署を越えたつながりが生まれにくい状況がありました。そこで有志でチームを立ち上げたことで、部署の垣根を越えて知り合うきっかけになり、一つのコミュニティのようなものが形成されていきました。仕事の枠を超えて活動できていることが、今の私たちの大きな強みです。

相模原はJAXAの中でも少し特殊な拠点で、研究主導の教育職、大学院生、一般職員が入り混じっています。そのため「自分たちで作ってやっちゃおう」という空気が根付いていて。私自身もそうしたDIY的な挑戦が好きなタイプだったので、周囲とうまく連携しながら発信を始めて、今年で6年目になります。

プロのような完璧なクオリティとはいかないまでも、逆にその「手作り感」が、形だけでなく作っている側の顔まで透けて見えるような配信や作品づくりに繋がっているのではないかと感じています。宇宙の分野はミッションそのものに注目が集まりがちですが、その裏側で熱い思いを持ってミッションを形にしている「人」にも目を向けてほしい。そうした温かみを大切にしたくて、今もこのスタイルを貫いています。

―そうしたなかで2024年に、JAXA相模原キャンパスと星街すいせいさんのコラボレーションが実施されました。そもそものきっかけを教えてください。

星街すいせいさんの楽曲には宇宙をテーマにしたものが多く、しかも「すいせい」というお名前が、私たちが取り組んでいる水星探査と重なっていました。お名前の由来が「彗星」なのは存じ上げていましたが、ひらがな表記なので、水星(マーキュリー)の方とのコラボレーションもギリギリ行けるのではないか……?(笑)と、いつかコラボレーションができたらいいな、と勝手に想像を膨らませていました。

その後、星街すいせいさんの人気はさらに高まり、とても手が届かない存在になったなと思っていた時期に、相模原市さんから「星街すいせいさんとのコラボレーションを検討しようと思うのだけれど、一緒にやれないか」というお話をいただき、すぐに飛びつきました。実はその少し前、雑談の中で「星街すいせいさんとのコラボっていいですよね」と話したことがあり、それを覚えていてくださったようです。相模原市さんは「宇宙を身近に感じられるまち」というコンセプトを打ち出していて、市内には「星が丘」という地名の地区もあります。そうした背景も重なり、2024年10月、相模原市・JAXA・星街すいせいさんによるコラボレーションが実現しました。

水星磁気圏探査機「みお」熱試験モデル

―星街すいせいさんとのコラボレーションには、どのような反響がありましたか。

コラボレーションには、めちゃめちゃ大きな反響がありました。普段なかなかリーチできないファン層にタッチできたのが、非常に大きな効果でした。「相模原にJAXAがあるんだ」「JAXAって意外とこういうこともやっているんだ」という親しみやすさを感じた、という声を多くいただけたのは嬉しかったですね。VTuberさんとの相性は非常にいいと感じていて、YouTubeやSNSでトップクラスに活躍されている方々なので、その層に届けるという意味で大きな力をお借りできますし、私たちも学ばせていただくことが多いです。

50万回再生の裏側にあった、学会の合間の編集とチームワーク。パロディMV「ビビデバ」制作の舞台裏

―2025年10月に「ビビデバ JAXAver.」として公開された星街すいせいさんの楽曲「ビビデバ」のパロディ動画は、どのような経緯で生まれたのでしょうか。

最初は、2024年に相模原市とのコラボレーションの一環で、「ビビデバ」の踊ってみたショート動画をみおのメンバーと相模原市の市長、副市長の出演で制作したんです。大きな反響をいただき、当時から「次はフルバージョンを作りたいね」という話はあったのですが、半分冗談というか、実現は難しいだろうと思っていました。ですが、スコットの若手のメンバーが「フルバージョンを作りましょう!」と声を上げてくれて、実際の制作に至りました。

歌詞を替え歌にして制作したので、星街すいせいさんご本人、そしてカバー株式会社さんからの許諾を得ることが不可欠でしたが、無事に許諾をいただけました。

―「ビビデバ JAXAver.」は、現在50万回以上再生され、SNSでも大きな話題となりました。制作前は、どれくらいの反響を想定されていましたか?

正直、ここまでの反響になるとは全く思っていませんでした(笑)。過去に制作したミュージックビデオが1万〜2万回再生ほどだったので、5万回いけば良い方だと考えていたのですが、実際には数十万回再生まで伸びていきました。

コメントもポジティブなものが非常に多く、ネガティブな反応はほとんどなかったと記憶しています。動画には副所長も出演しているのですが、「いい職場だな」「JAXAって意外とこういう機関なんだ」といったコメントも多くいただきました。私たちがやりたかったこと、狙っていた反応がまさに返ってきたので、率直にうれしかったですね。反響の広がりが、非常に面白かったです。

―制作期間はどのくらいだったのでしょうか?また、歌詞や演出面では、どのようなこだわりがありましたか。

2週間ほどで出演メンバーが集まり、撮影自体は3日ほどで、そこから2〜3日で編集を仕上げました。替え歌の歌詞ができあがったのもかなり直前で、当時学会で出張していた私が、山口県からリモートでつないでの対応もありました(笑)。

演出面では、オリジナルのミュージックビデオをオマージュする形だったので、ディレクターチームはカット割りやタイミングを本家に合わせる作業に特にこだわっていたと思います。サムネイルの再現にも力を入れていて、撮影の合間に立ち位置を変えてもらうなど、細部までこだわって撮影しています。

「応援してくれる人がいるから、頑張れる」。宇宙開発とVTuberファン文化がひらく、新たな可能性

―宇宙とVTuberという組み合わせには、今後さらにどのような可能性を感じていますか?

宇宙とバーチャルという組み合わせ自体、とても相性がいいと思っています。宇宙は誰もが憧れる存在ですが、実際に自分が行ける場所かというと、なかなかリアルには想像しづらいものです。その点、バーチャルはそうした距離を一気に飛び越えられる存在だと思うんです。宇宙という遠い世界を、バーチャルという身近な存在を通して多くの方に届けられることに大きな可能性があると感じています。

先日は、角巻わためさんが自チャンネルの公式番組「角巻わためのHave a nice day」にて、JAXA相模原キャンパスを紹介してくださいました。

角巻わためさん、アキ・ローゼンタールさん、儒烏風亭らでんさんを普段一般の方向けに公開しているエリアにご案内したほか、隣の棟にある「宇宙探査フィールド」という、月面を模した大きな砂場のようなフィールドも、特別に中に入っていただいて、実際に月面を疑似体験していただきました。

以前からやってみたいのは、VR技術を使って宇宙空間を表現し、その中にVTuberさんが登場するような演出です。私たちも今、プロジェクションマッピングを活用した演出などを試行錯誤しています。実際のライブエンターテインメントの演出はすごく見ていて勉強になるので、そういう見せ方を取り入れながら、もっと多くの方に魅力を伝えていきたいと考えています。

―そうした交流を重ねる中で、ファンの「応援する」文化とJAXAのミッションに通じるものを感じることはありますか。

ありますね。宇宙開発というと、機械や技術の話に聞こえるかもしれませんが、実際に現場で取り組んでいるのは人間です。だからこそ、多くの方からの応援は本当に力になります。VTuberさんを応援する「推し活」の文脈と、私たちが応援を必要としている理由は、実はとても似ているんじゃないかと感じています。

VTuberさんを応援するファンの方が、その先で私たちのミッションも一緒に応援してくださる。それも、コラボレーションのひとつのかたちなんじゃないかと思うんです。そういった力を少しでもいただけると、私たちも本当にモチベーションになりますし、実際に成果にも関わってくるんじゃないかと思っています。

応援したいと思ってくださった方には、まず私たちが出している動画やウェブページを見ていただければと思います。さらに関心が高まれば、ぜひ足を運んでいただいて、特別公開の機会に参加いただければ、実際に研究者と直接話すこともできます。去年から始めた「研究者カード」という取り組みもあって、特別公開の際に研究者に話しかけていただくと研究者のトレーディングカードがもらえる仕組みになっています。そうやって顔を合わせながら応援していただけるのも、オンラインとはまた違った楽しみ方だと思っています。

―2026年は、宇宙開発の分野でどのようなトピックに注目が集まりそうでしょうか?

今年は私たちの分野にとって、非常に節目の年になります。まず「はやぶさ2」の拡張ミッションでは、地球にサンプルを収めたカプセルを届けた後も、探査機本体が飛行を続けており、7月5日には小惑星「トリフネ」へのフライバイ観測に成功しました。加えて、火星の衛星からのサンプルリターンを目指す新ミッション「MMX」の打ち上げも、種子島から控えています。そして11月には「みお」がいよいよ水星に到着する予定です。さらに、ヨーロッパのミッション「Hera」も、NASAの探査機による衝突実験後の様子を確認するため、日本の観測装置を搭載した状態で、同じく11月に目的地へ到着する見込みです。

これだけの主要ミッションが同じ年に集中するのは、そうそうないほど珍しいことです。「みお」自体、本来は昨年到着予定だったのが、エンジンの不具合で1年延期になったこと、「MMX」の打ち上げも一度延びて今年になったことなど、いくつもの偶然が重なって、2026年に集中する形になりました。ぜひこの機会に、多くの方に宇宙開発への関心を持っていただけたらと思っています。星街すいせいさんとも、いよいよ「みお」が水星に到着するので、これからもぜひご一緒できたらと期待しています。

―「みお」の水星到着を控える中、今後どのようなメッセージを伝えていきたいですか。

みおは、日本国内ではまだそこまで知名度が高いミッションとは言えないので、もっと多くの方に知ってもらいたいと思っています。このミッションが検討され始めたのは1997年、私がまだ中学1年生くらいの頃です。それから21年経って2018年にようやく打ち上げられ、そこからさらに8年かけて、いよいよ水星に到着する。非常に長く、壮大なプロジェクトです。それだけ難しいミッションでもあり、実は到着してからもまだまだ難しい運用の連続となります。

「みお」が水星に到着するまで、そしてその先も、まだまだ長い挑戦が続きます。私たちのこのチャレンジを面白いと思っていただいた上で、一緒に応援していただきながら、これからも宇宙の面白さを届けていきたいと思っています。

―宇宙開発という壮大な挑戦の裏側にある「人」の思いと、それを応援するファン文化の重なりを伺え、大変刺激的なお話でした。ありがとうございました!JAXA相模原キャンパスと星街すいせいさんが紡いできた応援のかたちが、この先どんな新しい可能性を見せてくれるのか楽しみにしています!

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