「企業の大義を発信し、社会との接点を広げる」広報を支援するアドバイザー矢嶋聡が挑む、VTuber文化の可能性と挑戦

LINEやメルカリで広報を担当し、2023年に株式会社はねを創業した矢嶋聡さん。
矢嶋さんは急成長を遂げる数々のスタートアップ企業を支援してきた実績を活かし、VTuber業界を牽引するカバー株式会社のコーポレート広報の広報アドバイザーとして支援してくれています。

若年層へのリーチ力と深いエンゲージメントを持つVTuberに、日本発の新しいコンテンツ産業として大きなポテンシャルを感じているという矢嶋さんは、カバーの広報をどのように感じているのでしょうか?
カバーが直面する課題とその先にある可能性について伺いました。

LINEやメルカリの広報を経て、PRコンサルタントへ。
若年層へとリーチできるVTuberに感じたポテンシャル

ー矢嶋さんのこれまでのキャリアと、カバーに関わることになったきっかけを教えてください。

早稲田大学卒業後、ネットベンチャーの立ち上げや留学、PR会社勤務を経て、2008年にネイバージャパン(現LINEヤフー株式会社)に入社し、「LINE」の広報・マーケティングを統括しました。2017年10月には株式会社メルカリに転職し、5年ほどグループ広報責任者としてリスク対応や東証マザーズ上場や大型業務提携などを担当しました。2023年3月にメルカリを退社し、同年6月に戦略広報マネジメントに特化したPRコンサルティング会社として株式会社はねを設立しました。

谷郷さんとの出会いは、約15年前、ネイバージャパンで「NAVERまとめ」というキュレーションサービスの広報マーケティングを担当していた頃です。同じくキュレーションサービスの「30min.」を運営していた谷郷さんと同業者として話をする機会があり、それ以来不定期に交流が続いていました。カバーに関わるきっかけになったのは、私が独立する直前の2023年6月に、谷郷さんから広報体制を見直したいという相談を受けたことです。VTuber業界についてはカバーが上場したことやイベントが盛り上がっているという程度の知識しかなかったのですが、詳しく聞けば聞くほど面白いと感じ、興味が湧きました。

その後、正式に独立し、2023年9月からはカバー株式会社のコーポレート広報アドバイザーとして携わっています。広報チームと共に、対外的にカバーという会社をどう見せるかという視点から戦略を練り、メディア向け勉強会や発表会の企画などを支援しています。

ーこれまでLINEやメルカリといったtoC向けのアプリケーションの広報をされてきた矢嶋さんですが、エンタメ領域であるVTuberやカバーのどういった点に最も興味を持ちましたか?

特に興味を持ったのはVTuberという領域の成長の速さと、VTuberとファンは配信などを通じて双方向に交流を行うというエンゲージメントの深さです。若年層から強い支持を得ている領域なので、若年層にプロモーションしたい企業としては、VTuberを通して若年層にリーチできますし、消費にも影響を与えられる点は非常に強みだと感じています。一方で、さらに上の世代の方々にもVTuber文化が広がっていくポテンシャルも感じています。

私自身、初めてホロライブのライブを見た時にはタレントのみなさんの技術力や表現力、コミュニケーション力の高さにとても感動しました。また、若い世代の中でも男女問わず、幅広い層のファンがいることにも驚きました。YouTubeの画面越しで見るのとは全く違う体験で、良い意味で期待を裏切られました。こうした感動は世代を超えて伝わるものだと思うので、VTuberがより身近になっていく過程で、今はまだ触れられていない世代の方にも伝播していくと思っています。

この先、あらゆる世代の日常にホロライブが浸透していき、ニッチやサブカルといった領域ではなく、ライフスタイルの一部になっていく可能性が大いにあると感じます。VTuberという分野は一時代の流行ではなく、産業として盛り上がっていく領域だと思います。

谷郷CEOの想いを社会的なメッセージに乗せ、世間へと発信していく

ー実際にライブに足を運ばれてホロライブプロダクションの可能性にさらに発見があったということなのですね。それでは、そうした現状や社会に対して、広報としてどのように社会へアプローチしているのでしょうか?

現在、VTuber領域は世間一般と若年層の認識ギャップが大きく、それを埋めていく必要があります。まだ出てきたばかりの新興領域なため、新聞やビジネス系メディアの記者さんたちにとっては業界全体の捉え方や社会的ポジションがまだ認知されていないと思っています。

谷郷さんとカバーについて初めて話した時、VTuberの未来について熱く話されていたのが印象的でした。そこにはVTuber文化の一般化を目指すとともに、容姿・外見に左右されず、歌唱力やコミュニケーション能力があれば、誰にでも活躍の場があるということを実証したいという想いがあると思っています。VTuberは”流行りもの”と思われがちですが、実際には才能ある人達たちの新たな自己実現の機会を提供する役割として重要な価値を持っています。また、日本のコンテンツ力は世界でも競争力がありますし、そこにVTuberのような最先端のテクノロジーを掛け合わせることで、新たなコンテンツ産業として世界で成功を収めることもできるとも思っています。広報としての役割は、これらの本質的な価値やメッセージを発信していき、社会との接点を広げることです。

そうした前提を踏まえ、現状のカバーにおける広報戦略は「日本のGDPが衰退する中で、日本のお家芸である二次元コンテンツをテクノロジーと掛け合わせ、世界に拡げていく」というストーリーを軸に発信しています。

具体的な施策だと、2024年3月に海外拠点「COVER USA」の設立を発表をしました。発表に先立ち、記者の方々にVTuber業界やカバーへの企業理解を深めていただくため、1月に主要メディアの記者の方々を招いて「VTuber市場に関する勉強会」を開催しました。「VTuberにはどういった経済効果やポテンシャルがあり、カバーはその中でどこを目指しているのか」といったVTuber市場・業界に関して包括的に内容をご理解いただいたのちに、3月に海外拠点の設立発表を行うことで「カバーは世界に挑戦していく」という姿勢や意義を伝わりやすくするのが狙いです。

こうした勉強会などを経て、特に経済系の記者の方々からの理解は徐々に深まってきたと感じていますが、まだまだ2-3合目といったところです。一回の発表会や勉強会で全てが変わるわけではありません。私たちはまだスタート地点に立ったばかりなので、継続的にビジョンや世界観を伝えていかなければと思っています。対外的にはカバーはまだまだ”VTuber事務所”や”エンターテイメント事務所”のように思われており、かつニッチなコンテンツを扱っていると思われがちなので、そうではなく、コンテンツやIPの力を使って若年層を中心に生活者の消費や行動を活性化し、日本発の優れたコンテンツを海外に輸出する総合エンターテイメント企業であるという点を強調して発信していきたいです。

―なるほど。まずは業界全体について知ってもらい、そこからカバーとしてのポジションやビジョンをメディアを通じて世間に知ってもらうことが必要なのですね。急速に拡大していくスタートアップ企業での広報経験を持つ矢嶋さんですが、広報の仕事をする上でのポリシーや信念について教えてください。

「本気で社会を変えたい会社に寄り添う」ということを最も大切にしています。広報の仕事は、自社の製品やサービスの価値を発信していくだけでなく、”この会社が何のために存在しているのか、事業やサービスを通じて日本の経済や社会、生活者にとってどんな意義・価値を提供していきたいのか”という社会に対するスタンスや大義を対外的に発信していき、自社を取り巻くステークホルダーの共感を得ながら、最終的に社会に根付く存在になるまでサポートすることだと考えています。
その上で、本気で社会を変えたいと信じている会社が”飛躍”できるようご支援したい、という想いを込め、自分の会社名も「はね」としました。

LINEやメルカリもそうであったように、先進的なサービスや商品は必ず社会から批判や軋轢を受けます。そうした社会的な軋轢を乗り越え、「社会との合意形成」を進めていくことで、一般の生活者に受け入れられていきます。

そのためにも、この会社が存在する意義・価値はなにか、という目指すべき大義はぶらさず、一貫性のある発信やアクションを行っていくことが求められます。広報として発信をしていく中で「なにをやるのか」以上に、「なぜそれをやるのか」が重要で、それをきちんと言語化してぶれずに発信していくことが最も大切にしていることです。

「中長期を見据えて社会からの共感を得ていく」
急成長するスタートアップの広報戦略

ーこれまでの経験などを踏まえ、現状のカバーは、取り巻く環境や業界においてどのようなポジションにいると思いますか?また、これからカバーが成長するために克服すべき課題はどういったところだと思われますか?

現在のカバーは”VTuber事務所”から”総合エンターテイメント企業”へと対外的な見られ方も含めて移行する過渡期にあると感じています。

ホロライブプロダクションをコアに、物販・MD事業やメタバース事業、海外展開など多岐に渡る領域で複数の事業が並行して進んでいますが、こうしたフェーズにおいては、利用者層もコアなファンから一般層に広がっていく一方、社内外を含めても色々な課題が浮き彫りになりやすく、社会との軋轢が生じやすいタイミングです。

こうした時に経営者がネガティブな声に引っ張られすぎると、大義がブレてしまい、事業自体が失速していくケースは多くあります。そうならないよう、中長期目線で社会に対するスタンスや大義を発信し続け、粘り強く社会から共感を得ていくことが広報の重要な役割です。VTuberという領域は数年で急成長をした反面、これから一般化していく過程で意図しない反応・反響が出てくることもあると思います。その時に、組織としての体制やガバナンスが追いつかない部分も出てくる可能性がありますが、そこを乗り越えたら一つの産業として、社会に根付くことができるとも思っています。
企業への世間の風当たりが強い時こそ、いかに乗り越え、どのような発信ができるか、今から画策していきます。

ー困難に立ち向かう時こそ、短期の目線ではなく中長期で考えられる視座や技量が問われるのですね。それでは広報の視点から見て、3年後、5年後、カバーはどんな会社になっていると予想されるでしょうか?

3年後、5年後には、カバーが総合エンターテイメント企業として認知され、VTuber文化が人々のライフスタイルの一部として定着していることを期待しています。また、新たな産業振興のドライバーとして、日本のIT業界・コンテンツ業界全体の盛り上がりにも貢献できると考えています。
そのためにも国内外で一般化していくような事例を広く発信していき、幅広い年代の方々に親しんでもらえるよう注力していきたいです。

―最後に、今の等身大のカバーを一言で表すとしたら、どんな言葉を選びますか?

大人の階段を登っている状態を表す言葉として、「思春期」ですね。
これから成長の過程で様々な痛みを経験することもあると思いますが、それを乗り越えることで社会から認められ、さらなる成長を遂げることができます。そんな大きな伸び代を秘めた状態だと感じています。

ーありがとうございました。
矢嶋さんの広報戦略のもと、VTuber文化がより多くの人々の日常に浸透し、新たな産業として確立されていけるよう励んでいきます!

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